抱負は述べれど、開催のめどは立たず
安倍晋三首相が、金正恩委員長との首脳会談に前のめりになっている。5月に入ってから、「条件を付けずに率直に話をしたい」「虚心坦懐に話し合う」など、たびたび決意や抱負を述べている。
あまりにも安倍首相が日朝首脳会談について触れるため、開催が近いのかと勘違いしてしまうが、5月19日に東京都内で開かれた北朝鮮による日本人拉致問題に関する「国民大集会」で、首相自ら「残念ながら日朝首脳会談が行われるめどが立っていないのは事実だ」と述べている。現時点では、会談開催を北朝鮮側に呼び掛けているにすぎない。
仮に首脳会談が実現した場合、同じ懸案事項の解決のために、一国の首相が国交のない国を一方的に3度(1度目:2002年9月17日、2度目:2004年5月22日/ともに、小泉純一郎首相と金正日総書記)も訪問するのは異例中の異例となる。しかも、日本人拉致が北朝鮮の組織によって行われたことを故・金正日総書記が自ら認め、謝罪したにもかかわらずだ。
なぜ2度の首脳会談は失敗に終わったのか
加害者側である北朝鮮が謝罪した事件の被害者を取り返しに、前回の交渉から15年も経過してから再交渉に赴くのは異様な事態だ。これは、小泉純一郎首相と金正日総書記の2度にわたる首脳会談が失敗だったことを示唆している。
過去2回の首脳会談では、誘拐犯が拉致した被害者の一部を返したからということで、残りの被害者の存在を無視して、誘拐犯に身代金(食糧25万トンと医薬品11億円分、合計約100億円相当)を渡す約束をしてしまった。
3度目の首脳会談が達成しなければならない「成功」は、拉致被害者の再調査の実施を約束させることではなく、拉致被害者の全員帰国だ。今度こそ、拉致問題が完全に解決されなければならない。北朝鮮は「拉致問題は解決済み」との姿勢を簡単には崩さないだろうが、それを突き崩すのが首脳会談というものだ。