いずれ準中距離弾道ミサイルの技術も向上する

対話を自分たちのペースで運ぶために、北朝鮮は安倍首相を窮地に陥れる可能性もありうる。日本の排他的経済水域(EEZ)内に弾道ミサイルを落下させるのだ。こうなると、安倍首相も北朝鮮を強く非難せざるを得なくなる。「虚心坦懐に話し合う」などと言っていられなくなる。

5月4日と9日に発射された短距離弾道ミサイルは、日本のEEZから遠く離れた海域に落下した。だがこれは、国連安保理決議違反だ。これに対して安倍首相は「わが国の安全保障に直ちに影響を与えるような事態は認識されていないが、国連安全保障理事会決議に違反する。極めて遺憾だ」と述べるにとどまり、北朝鮮の行動を強く非難はしなかった。

安倍首相は、短距離弾道ミサイルの発射は、日本の安全保障に影響を与えないという認識なのだろう。だが、たとえ韓国だけを攻撃目標とする弾道ミサイルや多連装ロケットであっても、それらの技術向上は、いずれ日本を攻撃する準中距離弾道ミサイルの精度の向上などにもつながるだろう。

安倍首相の「宣伝」が、逆に北朝鮮の反発を招く

安倍首相が述べたとおり「直ちに影響は与えるような事態」ではないが、短距離弾道ミサイルであっても新型のものであれば、日本の安全保障と無関係とはいえないのだ。

筆者は日朝首脳会談開催に反対しているわけではないし、安倍首相の方針転換に反対しているわけでもない。あたかも北朝鮮との水面下での交渉が進んでいるかのような発言が気になるのだ。安倍首相の「宣伝」が、逆に北朝鮮の反発を招くのではないかと危惧している。

安倍首相の日朝首脳会談に関する一連言動が、夏の選挙や自らの政権の支持率向上を目的としたパフォーマンスで終わらないことを願うばかりだ。

宮田 敦司(みやた・あつし)
元航空自衛官、ジャーナリスト
1969年、愛知県生まれ。1987年航空自衛隊入隊。陸上自衛隊調査学校修了。北朝鮮を担当。2008年日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了。博士(総合社会文化)。著書に『北朝鮮恐るべき特殊機関』(潮書房光人社)がある。
(写真=時事通信フォト)
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