本当のバリアフリー社会は「選べる」社会
さまざまな機能が装備されて使用する人が増えたことに伴い、待つ時間も長くなっています。国土交通省の調査によれば、多機能トイレの使用を必要としている人の約9割が待った経験があるとしています。背景には、まだまだ数が不足しているという現実があります。
小規模な施設では、多機能トイレの設置が難しい場合もあります。その際には、近隣の多機能トイレを勧めることも必要でしょう。ただ、ホテルなどでは多機能トイレの使用を求められても、宿泊客以外の使用を断る施設もあります。これはぜひ柔軟に対応してほしいところです。社会全体で資源の活用と理解が必要なのです。
これまで説明してきたように、多機能トイレといっても、求める機能は使用する人によって異なります。北海道の摩周湖近くにあるプチホテル「風曜日」では、部屋のトイレの他、館内に3カ所の多機能トイレを設置し、レイアウトや手すりの位置・形状、便器の高さ等を変えています。このことにより、利用者は必要に応じて自分に合ったものを選ぶことができるのです。このホテルのように、使用する人の選択肢が増えていくことが、本当のバリアフリー社会につながると言えるでしょう。
「多機能トイレ」以外は使えない人への配慮を
現在問題になっていることは、本当は多機能トイレを必要としていない人で、多機能トイレを長時間使用する人がいることです。歩行が困難な車いす使用者やトイレ介助が必要な人は、多機能トイレでなくては、トイレを使用できません。他に選択肢がない人がいることを理解し、一般のトイレを使える人はそちらを使用しましょう。
一般のトイレが混雑しているけれど、多機能トイレは空いているという場合もあるかもしれません。その場合は、あまり長時間にならないよう、常識の範囲内で使うようにしましょう。
2020年の東京オリンピックとパラリンピック、ますます進行する超高齢社会の日本において、ハード面の整備とともに、それを使用する人、運用する人の心のバリアフリーが求められています。
サービス介助士インストラクター
1973年、埼玉県生まれ。桜美林大学院卒(老年学研究科修士号)。日本サッカー協会 施設委員。東洋大学国際観光学部非常勤講師。企業法務、専門学校講師を経て、現在、サービス介助士、防災介助士、認知症介助士などを認定・運営する団体「公益財団法人日本ケアフィット共育機構」のインストラクターとして、年間50社以上の企業対象研修を担当するほか、企業のバリアフリー・ユニバーサルデザインのコンサルティングも行う。