日本を訪れる外国人観光客は急増している。接遇を行うタクシー乗務員は、どのように英語を身につけているのか。今回、3ステップにわけて、その実態を紹介する。第1回は「基礎編」だ――。(全3回)

※本稿は、「プレジデント」(2019年4月15日号)の掲載記事を再編集したものです。

基礎編●必要な会話だけ丸暗記、会話帳とジェスチャーで何でもこい

60代の乗務員も英語に挑戦

タクシー乗務員の登録や指導、研修などを行っている東京タクシーセンターは、外国人観光客が急増し始めた2012年から、タクシー運転者向けに英語研修「外国人旅客接遇研修」を行っている。研修業務を担当する教務部部長の伊藤伸也さんは「一般的な英会話ではなく、タクシーの接客に特化した英語研修を実施している」と話す。

強い味方! 指差し外国語シート
東京都を走るタクシーは、業界団体である東京ハイヤー・タクシー協会が作成した「指差し外国語シート」を車内に備え付けている。タクシー利用でよく使われるフレーズを、日本語、英語、韓国語、中国語で示したものだ。外国語ができなくても、これがあればドライバーと乗客がお互い、該当するところを指し示すことで意思疎通ができるので、多くの外国人乗客とのコミュニケーションに活用されている。

初級は「外国人に接することに慣れる」ことが目標。「こんにちは」「私の名前は~です」などの簡単な挨拶や自己紹介から始まり、「どちらまで行かれますか?」「シートベルトを締めてください」など、接客中によく使う簡単なフレーズや、「美術館」「地下鉄」「お寺」など、目的地でよく使われる単語などを学ぶ。

中級になると、タクシー営業に必要な会話の習得を目標として、初級の反復練習に加えて道の方向などの言い方を学習する。「およそ1時間10分くらいかかります」「メーター料金に高速道路料金を加算します」など、やりとりはかなり実践的となる。上級には、体調不良やパスポートの紛失、事故に巻き込まれたときの対応や、東京スカイツリー、浅草寺などの観光案内なども盛り込まれている。

簡単な挨拶と、行き先の確認、支払いのやりとりだけに絞れば、タクシーの接客で必要なフレーズはそれほど多くない。研修で学ぶフレーズが採録されたCDやDVDも販売されているので、購入して何度も視聴し、暗記して乗務に活かしている受講者も多いという。伊藤さんは「受講者の英語のレベルも上がってきていて、積極的に『ロールプレイングをやりたい』と希望する人が増えている」と話す。