【小野】そうですね。例えば歯周病菌がアルツハイマーの患者さんの脳から見つかったというデータも発表されました。歯のケアが重要なのは確かなんです。

現在では、認知症は突然認知症になるのではなく、健常な状態からMCI(軽度認知障害)という「マイルドな認知障害」を経過して進むものだと考えられているんです。MCIになると、1年で約10%の人が、認知症になってしまう。4年だと移行率は約50%です。

MCIから健常な状態に戻ることもできて、回復率は14~44%ある。となると、MCIのうちになるべく健常な状態に引き戻すことが大事になります。いま我々の歯科医療が目指しているのはまさにここなのです。

【茂木】MCIの段階で兆候を掴み、適切な治療をしようというときには、これまでは認知行動療法などのアプローチがとられてきた。しかし、実は歯科医療、口の健康が大事であるということですね。

【小野】そうですね。個々人でできる一番の予防法は、やはり歯磨きです。

歯並びが悪いと、磨きにくい箇所が出てくる。そこに汚れがたまって、歯垢になり、歯垢から歯石になるとスケーラーという刃物でしか取れなくなって、歯周病になってしまう。そうすると、歯周病菌が血液に混じって全身に回り、糖尿病や心臓病にも関係するといわれています。脳にも影響するかもしれないと、近年では研究が進んでいるところです。

だから、基本である毎日の歯磨きを大切にすべきだし、土台となる歯並びが悪いと歯磨きも難しいから、できれば相談してほしい。歯並びが良くなって笑顔に自信が出たり、年をとってから、ふと「歯が残っていてよかったな」と思うなんて話もよく伺いますから。

【茂木】そういう、「幸福感」は脳にもいい影響を与えますしね。

今、人工知能がどんどん進化している中、それこそ、知能が高いとはなにかとか語られるけれど、翻って人間の持つ身体の意味が問われていると思うんです。そんな中、口の中の健康が、認知機能はもちろん、幸福感にも関わってくるというのは、大変興味深いですね。

茂木健一郎
1962年、東京都生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、92年東京大学大学院物理学専攻課程を修了。『脳と仮想』(新潮社)など著書多数。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。専門は脳科学、認知科学。
小野卓史
1987年東京医科歯科大学歯学部卒業。91年同大学歯学研究科修了。2010年より同大学大学院教授。専門は歯科矯正学。同大学歯学部附属病院副病院長で、先端歯科診療センターの他科の専門医と協力し包括的な診療を行っている。
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(構成=伊藤達也 撮影=小倉和徳)