もし受診した歯科医院が“ヤブ医者”だったら……。弁護士・野澤隆氏は「患者が裁判を起こしても、医療過誤の立証は難しく、仮に患者が勝てても賠償額は数百万円程度。労力に対して報酬が割に合わないので、嫌がる弁護士も多い」という。しかし野澤氏は、訴訟以外の方法で、歯医者に「仕返し」することは可能だと指摘する。「プレジデント」(2019年3月18日号)の特集「歯医者のウラ側」より、記事の一部をお届けします――。

医療ミスに自覚のない歯科医も

近年、医療の現場では患者と医師との双方が手術前のリスクを含めて、しっかり話し合いを行う“インフォームドコンセント”が求められるようになっている。だが、「歯科医師の場合、それが進めづらいのが現状」と語るのは城南中央法律事務所の野澤隆弁護士だ。

「歯科医師の数は1980年代の6万人台から現在10万人以上にまで増えた結果、他の資格業同様、専門家に対する敬意は薄れ、歯科医師の言葉に耳を傾けない人も出てきました。『先生の話だから耳を傾けよう』という“パターナリズム”(父権主義)が機能しなくなったのです」

こうした社会背景に加え、歯科医師の場合は社会政策上の問題、つまり社会保障制度の問題も絡んでいる。

「保険診療で得られる歯科医師の報酬は医師に比べて明らかに安く、過半数を占める中小の開業医院がひしめく現状では“数”で稼ぐ必要があります。結果、回転率を上げることに終始する人が多くなってもおかしくありません」

また、技術革新の速度が速く、技術向上に追い付かない歯科医師が出てきたのも要因の1つだという。

「古い世代の先生ですと、昔学んだ技術から更新されていないことも少なくありません。医療ミスの立証は、ミス(事故)当時の一般的な技術水準をベースに手続きが進められる以上、技術向上のない歯科医師は自覚なく医療ミスを行っている可能性があるのです」

加えて、人材関連費用の高騰、競争過多の業界における広告費の増大なども大きな要因となっている。

野澤弁護士は、歯科医師の診療は健康保険が適用される低価格の保険診療ものか、インプラントで1回数十万円の費用が必要な高価格帯のもので二極化しているのではないかと指摘する。つまり、中間の市場がないのだ。

「結果、保険適用の診療ばかりを行う歯科医師はインフォームドコンセントが重視されている昨今でも、回転率を上げるために説明義務を怠るケースも多く、トラブルにつながりやすいのです」

 

 

※「プレジデント」(2019年3月18日号)の特集「歯医者のウラ側 徹底解明!」では、本稿のほか、危ない歯医者の見分け方、歯科治療の不満ランキング、歯医者に聞いた受けたくない治療など、あなたの歯に関わる関心事を専門家らが徹底検証しています。ぜひお手にとってご覧ください。