【茂木】その、歯の自家移植というのはどういうものなんですか?
【小野】例えば奥歯がガタガタになってしまったときに、反対側にある移植しても問題ない歯を、ブリッジやインプラントではなく、移植する。もともとは、「自分の歯を減らさない」というのが発想の原点なんです。使える歯があれば使いましょう、と。
【茂木】歯を減らさないほうがいいというのは、神経が残った状態の歯があったほうがいいということですか。
【小野】それはまだ研究ではわかっていないんです。インプラントと自家移植した歯の違いは、歯根膜があるかないかなんですね。歯の周りに歯根膜といって、センサーがいっぱいついた膜があるんです。歯に加わる力が顎の骨に伝わる際にクッションになっているんですけれど、それがインプラントにはないんです。ただ、神経の有無によって脳に対してどんな違いが生まれるのかは、研究をやってみないとわからないです。
よく噛むことが海馬に与える影響
【茂木】そうなんですね。よく噛むことが高齢者の認知機能と関係していることはわかりましたが、子どもはどうでしょう。「よく噛んで食べる子どもは賢く育つ」とよく語られます。根拠があるのですか?
【小野】まずひとつ、JA全中が行った調査が挙げられます。全国の小学校1・2年生の子どもがいる母親に、子どもたちが朝ごはんを食べるときによく噛んでいるか、噛んでいないかをアンケートしたんですね。そして、その子どもたちが、学習意欲があるかないかと聞き、噛むことと学習意欲の関係を調べた。すると、よく噛んでいる子どもたちのほうが、学習意欲が高かったのです。
【茂木】なるほど。
【小野】僕自身も、子どもの頃から歯を正しく使うことが大事なのではないかと思って、研究をしたんです。
【茂木】18年に受賞された論文ですね。資料を拝見するだけでも非常に興味深い研究で、詳しく伺いたいと思っています。マウスを用いられたんですよね。
【小野】ええ。生後3週目の2つの子どものマウス群を比較したんです。一方は、ペレットという通常の硬さのエサを、そしてもう一方は、粉末にした軟らかいエサを食べさせて11週間、飼育しました。エサの栄養価と量はもちろん一緒です。前者を通常食マウス、後者を軟食マウスとしましょう。
【茂木】そして、11週間後、その2群を調べたら、噛む筋肉の重さや下顎の大きさに明らかな違いが出たと。