「代理店に睨まれたら、売れなくなる」

私はイタリアの白ワインも大好きなのだが、白ワインはシチリアに限る。シチリア島の最大の都市は北西部にあるパレルモで、そこから車で2時間ほど行ったところにプラネタというワイナリーがある。

プラネタの白ワインは「シャルドネ」「コメータ」「エトナ」と3種類あって、どれもメチャクチャうまい。私は蔵元を訪ねるのが趣味でプラネタにも足を運んだことがある。蔵元では白ワインをいずれも16~19ユーロで売っていた。そのときに蔵元の女性と仲良くなって、3ダースほど直販してもらって航空便で日本に持ち帰った。

買い込んだワインがなくなりかけた頃、プラネタに連絡して「また送ってよ。手続きはこうだから」と件の女性に頼んだら、今度は「申し訳ないけど、日本の輸入代理店を通してくれ」と断られた。理由を聞くと、他の業者と付き合ったり直販したりしてはいけないという契約があるという。代理店に睨まれたら日本で売れなくなるから困る、ということらしい。

しばらくして女性が言っていた輸入代理店から連絡が入って「特別にお安くします」と言ってきた。1本5000円程度だったと思うが、それでも日本では破格の値段なので買うことにした。

ワインだけではなく、輸入品はどれも基本的に同じ構造で、輸入代理店が幅を利かせている限り値段は下がらない。そこに追い打ちをかけているのは小売現場で乗っかるマージンだ。予約が取りにくいことで有名な海外のステーキハウスが東京にあって、そこではルーチェの「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」を6万円で出していた。

六本木のイタリア料理店でも6万円だったから、それが高級店の相場なのだろう。イタリアで修業したシェフや本場の事情に詳しいソムリエがいながら、平気な顔でマージン盛りだくさんのワインを勧めてくるのだから酷いものだ。

本場で3000円くらいのワインが日本では2万円近くで小売りされ、飲食店によってはその3倍の6万円くらい、つまり現地の20倍で供される。日本の内外価格差のカラクリそのものである。日欧EPAの経済効果は日本のGDPを1%、つまり5兆円押し上げると騒いでいるが、輸入品でぼったくる仕組みを直さなければ、EPAの経済効果が消費者に大きく還元されることはない。