もちろんプログラミングの素人だった妹尾氏は、自ら「趣味」と公言する飛び込み営業で全国の大学研究者と接触。某国立大学の研究室に「中小企業の“情報協同組合”をつくりましょう」と乗り込んで、その研究室で構築したシステムを格安で入手できたのです。

(写真上)特許を続々と取得。「フィンテックに関する特許も取得済み」(妹尾氏)。現在も数件申請中という。同社の社長は代々地元で流通業界の要職を務め、叙勲も受けている。(同下)同社のシステムを支えている本社の開発室。

「金も知恵もないなら汗をかけ、の実践です。上手く周りを巻き込んだので、ほとんどコストは掛かっていません。こちらの熱意が伝わったのだと思います。本当に皆様に感謝するだけです」

その後開発を進めた案件も、ネット関連のビジネスモデルはすぐに模倣されると見て、先手を打って次々と特許登録していったのもいい判断でした。その数、19。今後も増える見込みです。そんな地方の物流会社は、まず見当たらないでしょう。

ちなみに、創業当時の高光産業は株券や証券を運ぶ特殊な運送業者でした。重たくはありませんが、非常に重要な“貨物”であり、相当の信用力を要したはず。見方を変えれば、株券や証券は情報のるつぼ。つまり、もともと情報を扱う企業だったともいえるのです。

こうした妹尾社長個人の経験・マインドとインターネット、自社のDNAといった条件がそろったことで、物流業者によるIT事業が実現したのだと思います。

会社概要【髙光産業】
●本社所在地:福岡県福岡市
●資本金:1億円
●売上高:42.7億円(2017年4月期、倉庫業5.7億円、物流業21.3億円、その他15.7億円)
●従業員数:42名
●沿革:1935年創業。法人設立は1954年。主要業種は集配利用運送業。ほかに倉庫業、土地建物の賃貸業、物流コンサルティング業、IT事業など多岐にわたる。関連会社は5社。
森下 正
明治大学政治経済学部教授、経済学科長
1965年、埼玉県生まれ。89年明治大学政治経済学部卒業。94年同大学院政治経済学研究科経済学専攻博士後期課程単位取得・退学。2005年より専任教授、17年より経済学科長。著書に『空洞化する都市型製造業集積の未来―革新的中小企業経営に学ぶ―』ほか。
(構成=中沢明子 撮影=藤原武史、石橋素幸)
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