金物問屋、介護リフォーム業に転じる

▼新市場創造

芸人でパラパラ漫画でも有名な鉄拳さんが作成したショート動画「母の辛抱と、幸せと。」が話題になった。「辛抱」を信条に決して息子に弱さを見せぬ母親と、転倒・ケガをした母親の介護に奔走する息子の姿を描いた、涙腺崩壊の物語だ。

「大切な人を転倒から守り、安全で豊かな暮らしのお手伝いができたら」という想いを伝えるため、建築金物卸売業のマツ六(本社・大阪市)と共同で制作した母と子の物語である。

日本における「介護リフォーム」という新しい市場は、マツ六がつくりだしたと言っても過言ではない。同社のファーストリフォーム事業は、手すりやバリアフリーなど、高齢者や介護者を対象としたリフォームを事業ドメイン(事業領域)とした施工業者向けの通販ビジネスである。

同社のビジネスモデルのイノベーションについて、慶應義塾大学大学院教授、磯辺剛彦氏が解説する。

リフォーム事業は「モノ」ではなく「コト」

マツ六は1921(大正10)年に建築金物卸売業「松本六郎商店」として創業以来、時代に合わせて変化を遂げてきました。とくにバブル期には旺盛な新築需要に合わせ、建築金物なら何でもそろう「建築金物のデパート」と呼ばれていました。

しかし、バブル崩壊後に新設住宅着工戸数は一気に減少します。新築件数と歩調を合わせてきた会社の業績は、みるみるうちに悪化します。

「問屋業は金物店から依頼された商品をメーカーに頼んで倉庫に入れ、それを届けるだけです。『つまんない仕事だな』と思っていました。ということは、社員にとってもやりがいがないのは明らかでした」――社長の松本將さんはそう振り返ります。

マツ六社長 松本 將氏

そこで、社員にとってやりがいのある仕事をする。そのために、社会に必要とされ、これまでになかった新しいカテゴリーをつくりだす決意をします。

90年代後半になると、「リフォーム」と「高齢化社会」をキーワードに、住宅用手すりを中核としたバリアフリー建材に乗り出します。

「高齢者向けのリフォーム商材がまったくないことに気づき、これはチャンスだと思いました。先代社長のときから技術に対する知見はありましたので、高齢者や介護者のための手すりやスロープといった商品をメーカーポジションできちんとつくっていこうと決めました」(松本氏)

商社であるマツ六がメーカーポジションに進出したのは、メーカーとしては後発でしたが、市場にはバリアフリー建材がなかったので、このカテゴリーでは先発者になることができるからです。そして、松本氏はリフォーム事業の定義を「モノ」でなく「コト」と定義します。