「金物店やホームセンターは商品別に仕入れ、店頭でも釘や丁番のように商品別に並べられています。しかし、現場の施工業者が施主さんから依頼されるのは工事です。『コト』が完結するには『モノ』がそろっていなければできません。私たちが目指したのは売り手側の理屈よりも現場の仕事のお手伝いをすることでした。そして99年に『バリアフリーカタログ』を完成させました。このカタログは商品別でなくトイレ、階段、居室のように場所別、工事別に構成しました」(同)

毎年更新されるカタログ(写真左)。扉の前に取り付けが可能な手すりも(写真右)。

バリアフリー工事開始、翌年に介護保険制度が

全国の金物店や建材店にカタログを売り込んだが、取り扱ってくれる店はありません。その当時の新設住宅着工戸数はピーク時ほどではありませんが、それでも安定していました。人も会社も過去の成功を否定するのはたやすいことではありません。事業環境が変化しても新築住宅信仰は強く、小口で面倒な介護リフォームには誰も見向きもしませんでした。何よりも、すべてのビジネスモデルが新築市場向けになっていました。

ここで思いがけないことが起こります。カタログを創刊した翌年、厚生労働省の介護保険制度と国土交通省の改正建築基準法が施行されたのです。共に手すりに関係する項目が含まれていました。とくに介護保険制度では、介護認定を受けた高齢者が保険で利用できるサービスの中に、「自宅を暮らしやすく、自立を助けるための住宅改修費支給」が含まれていました。これらの制度により、膨大な住宅ストックを背景にした介護リフォーム事業が注目されるようになったのです。

「まったくの偶然でした。介護保険が始まるからバリアフリーのリフォームを始めたのではありません。バリアフリーの工事を始めたら、その直後に介護保険制度がスタートしたのです」(同)

介護保険金を受給できる改修工事には「手すりの取り付け」や「床段差の解消」など5項目が指定されたが、すでにマツ六のカタログにはすべての工事が含まれていました。介護保険給付の対象工事は、地道に現場の声を集めていたマツ六のカタログを、行政が参考にしたのだと推察します。

ビジネスモデルが違う新築とリフォーム

日本の住宅事業のビジネスモデルは新築に向いたものになっていて、介護リフォームのようなストックビジネスに応用することは容易ではありません。新築市場が重視されるには理由があります。まず、新築は単価が高く、効率的な商売ができます。それに対し手すり工事は手間暇がかかりますが、平均単価は10万円程度。新築のように同じ設計であれば、金物部品を箱買いすることができます。