自衛隊を日陰者にしてきたのは「自民党政府」

「2020年までに憲法9条を改正し、自衛隊の存在を明文化したい」と安倍首相は言うが、自衛隊を日陰者にしてきたのはほかならぬ自民党政府なのである。今秋までに改憲論議をまとめて、場合によっては衆参同時選挙に打って出て(憲法改正発議に必要な)3分の2の議席を得て、グズる公明党を振り落としてでも改憲発議に持ち込みたい。それが安倍首相の腹だが、以前から指摘しているように仮に発議に持ち込めたとしても国民投票では否決されると私は思っている。

憲法とは国家運営の基本理念である。駐留軍が書き残した現行憲法は体系的にも内容的にも欠陥だらけで、現代日本にはまったく適合しない。だから私はゼロベースで自主憲法を創るべきだと「創憲」を主張してきたし、自分でも白紙から憲法を書き上げて、『新・国富論』や『平成維新』などの著作で示してきた。条文を訂正して書き換えたような自民党の憲法改正案や、環境権などを書き加えた公明党の「加憲」案では、現行憲法が抱える根本的な欠陥は解消されない。

ましてやブルドーザーの如く改憲に突き進む安倍首相の頭の中にあるのは9条改正だけだ。憲法改正の是非を国民に問う以上、当然、「こういう憲法にする」というものを政府は示さなければならないが、安倍首相の肝煎りの改憲案が出てきた途端に朝日新聞的戦後民主主義で育った識者やマスコミから総攻撃を食らうのは目に見えている。国民投票は発議後60~180日以内に実施されるが、そんな短期間で国民の理解を得られる改憲案が用意できるとは思えない。

安倍首相が父親の墓前で誓ったこと

一方で19年の年明けに故郷で墓参りをした安倍首相は、父親である安倍晋太郎元外相の墓前に北方領土問題と日ロ平和条約の問題に終止符を打つために全力を尽くすことを誓ったという。「北方領土は我が国固有の領土」という日本政府の主張は正しくないこと、領土問題と平和条約をめぐってともに長期政権を築いたリーダー同士、ロシアのプーチン大統領と安倍首相が緊密な話し合いを重ねてきたことは本連載で再三指摘してきた。

両首脳は「平和条約締結後に歯舞、色丹の2島を日本に引き渡す」という1956年の日ソ共同宣言に立ち返って交渉を加速させることで合意した。しかしプーチン大統領にラブロフ外相以下ロシア側は「南クリル諸島(北方領土)の主権は第二次大戦の結果、ロシアが得たものだ。まずは日本が第二次大戦の結果と国連憲章を受け入れなければ話は進まない」との姿勢を崩さず、日本政府にもハッキリ伝えている。

安倍首相はそれをわかったうえで、ロシアとの交渉を「解決する」と墓前に誓ったわけだ。第二次大戦の結果を受け入れることを交渉の入り口とするなら、「日本がポツダム宣言を受諾した後にソ連軍が北方四島に侵攻して不当占拠した」というこれまでの日本政府や外務省の説明は嘘だったと国民に謝罪するべきなのだ。しかし安倍首相は国民にそんな説明をすることもなく、「日ロ関係は新しいフェーズに入った」としれっと言い放って、平和条約締結と二島返還の道筋を通すのだろう。