同時多発的始まった「黄色いベスト運動」

フランスでは車内に蛍光色の黄色いベストを常備しておくことが法的に義務づけられている。故障などで運転者が車両を離れる際の安全対策である。また黄色いジャケットは道路工事などのブルーワーカーのシンボルでもある。その人目を引く黄色いベストを纏った人々が各地で政府への抗議活動を開始、メディアの注目が集まるとともに参加者が増加して、瞬く間にフランス全土に広がった。これが「黄色いベスト運動」である。

反政府デモが常態化している(フランス・パリ、2019年1月26日)。(AFLO=写真)

この運動の特徴は組織だったものではないということだ。扇動する指導者がいない。フランス革命を誘発したバスティーユ監獄の襲撃のように、民衆の怒りが爆発する形で、同時多発的に抗議活動が始まった。もともとネットの署名活動からスタートして、2018年11月17日に30万人規模の大きなデモが発生、以降、毎週土曜日に抗議活動が行われるようになった。

当初は黄色いベストを着てデモ行進したり、幹線道路や高速道路の入り口を封鎖する程度だったが、極右や極左の政治的グループが交じり込んだこともあって一部が暴徒化し、器物を派手に破壊したり、放火騒ぎを起こすようになった。

エリート育ちのマクロン氏が犯した失敗

では、人々は何に抗議しているのかと言えば、きっかけは政府が燃料税の引き上げを発表したことだ。黄色いベスト運動は地方から始まったことも特徴の1つだが、フランスの地方は交通機関が乏しく、仕事や生活の足はもっぱら車。燃料税のアップは家計を直撃する。しかも最近はディーゼル離れが進んでいるとはいえ、フランスではガソリン車よりもディーゼル車に乗っている人のほうがいまだに多い。

ところが政府が打ち出した燃料税アップは、ガソリンよりもディーゼル用の軽油の引き上げ幅のほうが大きかったのだ。地方と都市部で給与格差があるのは日本もフランスも同じだ。ただしフランスは年間8000万人の外国人が訪れる世界一の観光大国である。田舎にも観光客がやってきてお金を落とすし、バカンスで長期滞在する外国人も多いから、地方と都市部で物価の差は殆どない。

生活を直撃する燃料税引き上げの一方で、政府は税制改革で法人税減税を行った。これが民衆の怒りを倍加する。「こっちはギリギリの生活をしているところに燃料税引き上げで負担が増えるのに、金持ち企業は優遇するのか!」である。エリート育ちで庶民感覚に乏しいマクロン大統領はここを踏み違えた。

燃料税アップに対する抗議から始まった黄色いベスト運動は「金持ち優遇反対」「最低賃金引き上げ」などへと主張を広げ、マクロン大統領が運動への理解を示しながらも「政策変更しない」と公言した頃には「マクロンアウト(マクロン辞めろ)」の大きなうねりに変質していた。

対応に苦慮したフランス政府は19年1月1日に予定していた燃料税の引き上げを見送ると発表、マクロン大統領はテレビ演説で最低賃金の引き上げや年金生活者向けの減税などを約束した。しかし、黄色いベスト運動は年明け後も続いていて、これが反政府デモに発展することやEU各国への本格的な波及が懸念されている。