デジタル覇権をめぐる米中の「経済冷戦」。中国の国家一体となった経済システムは成功するのか。中部大学特任教授の細川昌彦さんは、「中国は米国のGAFAをコピーした『BAT』で成功したが、国家主導が行き過ぎて、欧米の対中警戒感を強めてしまった。このままでは中国の『デジタル覇権』は失敗する」という――。

※本稿は、細川昌彦『暴走トランプと独裁の習近平に、どう立ち向かうか?』(光文社)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/maybefalse)

中国3大ネット企業「BAT」の躍進

中国の「デジタル覇権」を担う代表的な民間巨大企業が、3大ネット企業のバイドゥ、アリババ、テンセントだ。

これらの3社は頭文字をとって「BAT(バット)」と呼ばれている。これらの躍進ぶりはすさまじい。いずれも利益率は20%を超え、海外留学からの帰国組など優秀な人材を惹きつけて急成長している。中国国内、海外ともに急速に事業拡大しており、連日そうした報道には目を見張るものがある。最近は日本の政財界もこうした企業への訪問に殺到しているのが実情だ。

これまでのデジタルの世界では、米国のグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルが代表格であった。これらの企業はITを使った各種サービスの共通基盤になるインフラを提供する巨大事業者で「ITプラットフォーマー」と呼んでいる。そしてその4社の頭文字をとって「GAFA(ガーファ)」と呼ばれている。

国際的には、これらのITプラットフォーマーが巨大な顧客データを収集、蓄積することによって絶大な力を持つことへの懸念はかねてから指摘されているところである。

だが実はGAFAをマネしているだけ

実は中国のBATは、米国のGAFAのビジネスモデルを真似た「コピー・モデル」だ。中国政府はこれまで米国のGAFAに対して、さまざまな規制を設けて、中国市場での自由なビジネス展開を許してこなかった。これは「デジタル保護主義」だと指摘されている。

例えば、クラウドサービス事業については外資規制をしている。そうした中国政府によって作られた「国境の壁」に守られて、BATはGAFAとの競争を回避できて、14億人の巨大市場の中で急成長していった。

そして国内で保護されながら十分成長して巨大になったうえで、海外でのビジネス展開に打って出ていることについては後述することにしたい。

問題は、中国のBATは中国政府との密接なつながりの下に成長していることだ。共産党政権の意向に沿ってビジネス展開している限りは、政権によって保護を受けて高収益力で成長する。いわば「国家と一体となった」成長モデルと見られている。