ビッグデータによる社会統制を進める中国
さらに、こうしたBATは巨額の資金力で、あらゆる分野のベンチャー企業に投資して、自らの支配下に囲い込もうとしている。中国のベンチャー企業の多くはデジタル分野だが、その資金供給源になっているのだ。2017年にアリババ、テンセントが出資した企業数はそれぞれ10社、80社を超える。
企業価値が10億ドルを超える未上場企業を「ユニコーン」と呼ぶが、世界に250社あるうち、中国には米国の120社に次いで多い70社がある(2018年8月末時点)。中国はこうしたユニコーンを国を挙げて支援している。日本はたった1社であるので、中国の躍進ぶりは目を見張るものがある。BATは潤沢な資金を背景にこうしたユニコーンの3分の1の会社に出資している。
そして、こうして囲い込んだ多数のさまざまなベンチャー企業のビジネスを通じてもデータが集まるようになっている。こうしたベンチャー企業はさまざまな生活や事業分野で多様なウェブサービスを展開している。その結果、BATはGAFA以上に多様な種類の豊富なデータを蓄積することができるのだ。
しかし、そこにはデジタル分野特有の深刻な問題をはらんでいる。
中国政府はBATが収集した膨大なビッグデータにアクセス可能だ。後述する「サイバー・セキュリティ法」には公安機関への協力義務も規定されている。こうしたデータをAIで分析すれば、「国家による社会統制システム」になり得るのだ。
飛躍的に普及する「モバイル決済」
例えば、中国ではスマホを使ったモバイル決済が急成長して、米国の10倍以上にまで普及している。中国に行くと驚くのが、このキャッシュレス社会だ。その一翼を担うのが、アリババが提供する電子決済システム、アリペイだ。飛躍的に普及しており、日本にも進出している。
このアリペイは個人情報を提供させて個人の信用力を点数化して、顧客ごとにどの程度の優遇をするかを決めるようになっている。こうして自然に個人情報のデータが集まる仕組みだ。このようにして収集された個人に関するデータに国家はアクセスできる。ちなみに、アリペイやテンセントなど民間の銀行決済システムは、2018年の6月からは全て人民銀行の統一決済プラットフォームにつなぐことになり、その結果、官民一体の巨大ビッグデータが中国政府下にある。