医療界への社会的信頼を回復させたい

一方で、私が医師として、今回のように、「医療者を売る」ことにつながるような仕事に関わることを、訝しむ方が多くいらっしゃることも事実です。製薬企業と医療者の金銭関係に積極的に関わるようになっておよそ一年半になります。その間、「そのようなことをやっていると、キャリアを台無しにするよ」といった言葉を受けることも少なからずありました。医療界の一般的なキャリアパスを考えると、あながち間違っていないかもしれません。

しかし、私個人は、医療界の中にいる者が、このような取り組みに率先して関わることは極めて重要だと考えています。医療界は、悲しいかな、不祥事が極めて多い業界です。ここ最近の事例でも、入学試験における女性差別、医師による痴漢、医療事故の隠蔽など、枚挙に暇がありません。また、ノバルティス事件を代表として、製薬企業と医師との過度な金銭関係を背景に起きた研究不正も存在しています。

残念ながら、その多くは外圧がかかることで、初めて情報が外に出てきており、医療界自らが、率先して、その解決に取り組んできたというケースは少数です。このような現状は、確実に、医療界の社会的な評価を悪化させています。反対に、今回のように、これまでタブーとされてきた領域において率先してその解決に取り組むことは、長期的には医療界全体への社会的な信頼を回復させることにつながると、私は信じています。

患者や社会がフェアに判断できるように

そもそも、製薬企業から医師が謝金を受け取ることについては、一般の方々の評価は分かれる可能性があると思います。例えば、製薬企業からたくさんの謝礼を受け取っている医師の方が、謝礼を受け取っていない医師よりも信頼できると考える患者さんもいらっしゃるでしょう。実際、大学教授など社会的に立場のある医師の方々の方が、講演などの話が多く回ってくることも事実です。いずれにしても、患者さんや社会がフェアに判断できるように、医療界が変わっていく必要があるのではないでしょうか。今後、医療者は、今まで以上に、情報をしっかりと開示し、説明責任を果たしていく必要があると思います。

その点、私たちが強調したいのは、このデータベースは、すでに社会の公共財であるということです。もし、読者の方々の中に、ジャーナリストや研究者の方々がいれば、ぜひこのデータを使って、さまざまな調査を計画・実行いただければと考えています。そして、一連の問題が、より多くの方々の関心事となることを願っています。

そして、最後にみなさんに一つお願いをさせてください。それは、寄付です。今回の一連の調査には、データの抽出と入力、データの整理などのプロセスで、膨大な時間とコストがかかっています。基本的にはワセダクロニクルに出入りする学生さんが関わってくれているため、安価に抑えられていますが、その経費は、原則として全て寄付で賄われています。来年以降も、このような情報公開を続けていくために、ぜひ皆様のご協力をお願いいたします。ご協力いただける方は、ホームページをご覧ください。

尾崎 章彦(おざき・あきひこ)
外科医
2010年3月東京大学医学部卒業。同年4月~国保旭中央病院 初期研修医、2012年4月~一般財団法人竹田健康財団 竹田綜合財団 外科研修医、2014年10月~南相馬市立総合病院 外科、2017年1月~大町病院内科、2017年7月~ときわ会常磐病院乳腺外科。研修医時代に経験した東日本大震災に大きな影響を受ける。2012年4月からは福島県に移住し、一般外科診療の傍、震災に関連した健康問題に取り組んでいる。専門は乳癌。製薬企業と医療者の金銭問題の是正に、現場から取り組んでいる。
(写真=iStock.com)
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