創造的破壊が企業に自らの「再定義」を迫る

デジタルディスラプター(創造的破壊者、以下DD)と呼ばれるスタートアップ企業が、国境を越え、想像を超えるスピード感を持って既存市場に参入し、既存企業を脅かす存在となっている。その背景には、ビジネスを迅速に立ち上げるためのインキュベーター(孵化器)として、グーグル、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフトなどの巨大プラットフォーマーの存在がある。

彼らは、クラウドはもちろん、業務系アプリ、アプリマーケット、認証・課金・回収代行機能、時にはファンド(資金)まで提供してくれる。しかも、エンドユーザーの手のひらのなかにはすでにスマートフォンやタブレット端末があり、SNSでつながっている。スタートアップ企業に必要なものは、クールなアイデアと、誰にも負けない情熱だけ、ということになる。

一方で、これらのDDたちに脅かされた業界や企業は、強烈な危機感を持って、自らのデジタル変革(デジタルトランスフォーメーション、以下DX)に着手しなければならなくなる。その典型例が自動車業界である。カーシェアやライドシェア、自動運転が、自動車業界に変革を迫っている。ライバルは他の自動車メーカーではなく、Uber TechnologiesなどのDD、アップルやグーグルなどのネットジャイアントである。

自動車の所有から利用へとシフトする時代において、自動車メーカーはどのような価値を提供する企業になるのか。トヨタ自動車の豊田章男社長は、「モビリティをサービスとして提供するMaaS(Mobility as a Service)事業者へと変革しなければ生き残れない」と語っている。

企業(事業)のこのような再定義が、あらゆる局面で進展しつつある。その集合体である、既存の「業界」や「産業」といった枠組みさえメルトダウンし、再定義されることになる。企業の再定義とは、すなわち、自社の強みを先鋭化させることにほかならない。他社にはない自社の強みを再発見し、磨き上げる。自社が提供しているサービスやプロセスを機能に分解し、競争力のある機能だけを残す。

そして、外部から調達した、より競争力のある機能と再結合させ、新たなサービスやプロセスを構築する。その結果、他社には提供できない、新たな価値を提供する企業に生まれ変わる。それも一度ではない。必要であれば何度でも生まれ変われる企業になる、ということである。