半年かけて説得、マンションに管理組合を設立

このマンションで問題だったのは、管理組合がないことでした。分譲主の地元工務店が倒産したこともあり、管理組合のことはうやむやになってしまったようです。

私は当時、会社の仕事で分譲マンションの販売をやっていましたから、このままではマンション自体が立ち行かなくなるということがわかりました。そこで、管理組合を立ち上げることにしました。

休日や夜間に一戸一戸訪ねては、「このままでは大規模修繕や日常の管理業務で困ることが出てきます」と、半年かけて住民のみなさんを説得して回ったのです。ひと通り了解が取れたところで全戸集会を開き、管理組合を設立。理事長には年配の方になっていただきました。社会人として「駆け出し」の私の言葉に住民の方々が耳を傾けてくださり、組合を設立できたことは貴重な経験になりました。

ここには約3年住みましたが、東京転勤を機に売ることにしました。以後、私は都合3度マンションを購入し売却しているのですが、どれも投資目的ではありません。「住むために買い、住まなくなったら売る」の繰り返しでした。

今は東京郊外の一戸建てに住んでいます。子供2人と私たち夫婦の4人家族です。しかし日本全体を見ると、少子高齢化が進み、ファミリー世帯が減って単身世帯が増えています。ファミリー向けに加え、シニアや単身世帯、夫婦でダブルローンを組まれるパワーカップルなど、多様な家族構成に合わせた住宅づくりがますます大事になってきていると実感しています。

18年、当社は「BE UNITED構想」を発表しました。従来はマンション内でのコミュニティ醸成を図ってきましたが、今後はより地域社会に開かれたコミュニティを目指そうという考え方です。まずは「プラウドシティ日吉」(横浜市)の開発を進めています。マンション居住者だけではなく近隣の方々とも手を携えながら、よきコミュニティをつくっていく。こうした形で、今後も当社らしい街づくりを進めていきたいと考えています。

松尾大作(まつお・だいさく)
野村不動産 取締役兼専務執行役員
住宅事業本部長。1964年、鹿児島市生まれ。同志社大学経済学部卒業後の88年、野村不動産に入社。2018年より現職。野村不動産ホールディングス執行役員を兼ねる。
(構成=久保田正志 撮影=永井 浩)
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