「画面の向こうのかわいいキャラクター」なら許せる

なんでこんな奴に人生語られなきゃいけないんだ、わたしは何に話しかけてるんだろうと我に返りつつも、あれこれ試行錯誤しながら育成しているうちに不思議と愛着がわいてくる。うっかり死なせてしまうと悲しかったものだ。

同じ内容を、面と向かって他人に言われたらハッとしたり怒りを覚えたり、鼻白んでしまったりするに違いない。でも画面の向こうにいる非実在の、不気味な人面魚なら許せる。そんな不思議な経験を可能にするゲームだった。

先述したように『チコちゃんに叱られる!』では、チコちゃんの声をコワモテで知られる木村祐一が担当している。面と向かって彼に「ボーっと生きてんじゃねえよ!」と叱られたら、絶対しばらく立ち直れない。

そこで5歳児という設定と着ぐるみとCGとボイスチェンジャーが駆使されることにより、「チコちゃん」が生まれ、画面の向こうにいるかわいいキャラクターとして受け止めることが可能になる。原則としてだれにも叱られたくないわたしだが、チコちゃんになら……という奇妙な気持ちが芽生えつつあるのも事実だ。

そう考えてくると、チコちゃんのデザイン変更により、木村祐一のもつコワモテというイメージとキャラクターの見た目のギャップが大きくなったともいえる。そして実は、このギャップこそが番組の真価をとらえる上で重要だと思われる。

声の主を知っても知らなくても楽しめる

既に述べたように、『チコちゃんに叱られる!』には岡村隆史がレギュラー出演しており、言わずもがなチコちゃんの声の主・木村祐一とはよしもとクリエイティブ・エージェンシーの先輩後輩である。

その関係性を生かした楽屋オチ的なトークや、またゲストたちからチコちゃんに対する「5歳なのにそんなことよく知ってるね」というようなお約束のやり取りは番組の魅力のひとつだ。

といいつつ、視聴者のなかにはタレントとしての木村祐一を知らない人もかなりいるだろう。またチコちゃんというキャラクターをそのままチコちゃんという5歳の少女として受け取っている人(子どもが多いかもしれない)もいるはずだ。

お約束のやり取りはあるものの、チコちゃんが着ぐるみであるとか木村祐一がどんな人物であるかをことさら強調するわけでも、かといって人形である事実や声の主を必死に隠すということもない。いずれの見方も可能で、ギャップが大きいからこそどちらの楽しみ方も可能なつくりになっている。

そして興味深いのは、こうしたチコちゃんというキャラクターに対するスタンスが、番組の内容とも連動しているという点だ。