もう1つ明らかにしたかったのは、睡眠の質が向上した影響が、アスリートのパフォーマンスに結びつくのかという点です。

エアウィーヴ会長兼社長 高岡本州氏

これを科学的に証明するには、相当数のサンプルが必要です。しかも被験者の運動能力や生活環境が均質でなければ信頼に足るデータとはいえません。おまけに起床後のデータを計測するとなると、研究できる場所は限られます。唯一可能な場所がIMGアカデミーでした。

IMGは米フロリダ州にある寄宿制のスポーツトレーニング施設で、80カ国以上の国々から将来を期待されたアスリートの卵が集まり、寝食を共にしています。日本では錦織選手がテニス留学したことでも知られています。

このときの研究は、およそ500人の学生から選んだ48人を2グループに分け、片方はエアウィーヴで、もう片方は別のマットレスで4週間寝てもらい、起床直後の運動パフォーマンスを調べるというもの。5週目からは、グループを入れ替えて同じ計測を行っています。この研究は3年間継続し、結果は期待通りのものでした(論文投稿準備中)。さらにこのとき、IMGの学生たちは、睡眠と筋骨格に関する膨大なデータも提供してくれました。

健康な人が対象の睡眠研究はそれまでなかった

人間の体形、筋肉量は一人ひとり違います。身体活動を支える靴は、個々人に合った形状、硬さのものを選びますが、寝具は皆同じです。それは病気としての睡眠障害の臨床研究とは違い、一般の健康な人を対象とした科学的な睡眠研究はほとんど行われてこなかったからです。

一方、我々はアスリートをサポートしてきた経験から、陸上選手と体操選手とでは寝具への要求が全く違うことを知っていました。18年平昌五輪では、スピードスケートの小平奈緒選手のフィッティングデータを測定。それに基づきカスタムメードしたエアウィーヴを提供しました。

ただ、フィッティングを行えば選手の皆さんには好評なのですが、身体測定におよそ1時間を要するのが難点でした。

そこで20年を目処に開発しているのが、2方向から撮影した写真データと身長、体重の数値のみで、最適なマットレスをカスタマイズできるシステム。完成すれば一人ひとりに最適なオーダーメード・マットレスが簡単につくれます。

このような簡易な計測によりカスタマイズができるのは、これまで蓄積してきたバックデータがあるからです。体格のデータさえあれば、過去のデータから割り出した適切な反発係数を素早く計算できます。

エアウィーヴはいい製品ですが、技術はいつか陳腐化します。しかし、一流のアスリートや世界トップのアカデミアと積み上げたデータとブランドはコピーできません。当社の強みはそこにあるのです。

高岡本州(たかおか・もとくに)
エアウィーヴ会長兼社長
東海高校、名古屋大学工学部卒業。慶應義塾大学大学院、スタンフォード大学大学院修士。日本高圧電気社長(現任)を経て、2004年からエアウィーヴ社長。
(文・構成=井手ゆきえ 撮影=永井 浩 写真=AFLO)
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