糖質制限、食べる順番ダイエット……それでもリバウンドしてしまうのは、「脳」の観点が抜け落ちているから。精神科医の久賀谷亮さんは著書『無理なくやせる“脳科学ダイエット”』(主婦の友社)でそう訴える。では、どうすればいいのか。久賀谷さんに聞いた――。/聞き手・構成=矢部万紀子

既存のダイエット法は「根性論」になっている

――ダイエット法は数限りなく提唱されています。決定打がないということは、既存のダイエット法に問題点があるのだと思います。なにが間違っているのでしょうか?

精神科医の久賀谷亮さん

【久賀谷】食べ方でなく食べ物ばかりに特化している。精神論、根性論に依拠している。脳を無視している。その3点です。

我慢や己を律することで何かが達成できると思っている人は多いですが、2分間、目をつぶってみてください。次々と考えが生まれてきます。それは、本人の意思に反して脳がしていることです。それを止めようと思っても、人はその術を持ち合わせていません。

既存のダイエット法は食の制限の仕方は説きますが、「食べたい」という欲求をどうするかには触れません。そうなると根性で乗り越えるということになります。止められない脳を止めよというのが根性論だとしたら、それはうまくいきませんよね。

もう一つ、食行動の問題は内面が満たされないことと深く関係しています。ところがそこに「根性」が入ってくると、自分を責めてしまう。ダイエットがうまくいかないのは己を律することができないダメ人間だからという罪悪感が生まれ、さらに悪い食生活になる。自尊心を下げるような考え方は、ダイエットにとって逆効果です。

「注意を向けて食べる」のほうが長続きする

――既存のダイエット法でも「糖質制限」や「食べる順番ダイエット」などは、「食べ方」に特化したものではないですか?

【久賀谷】ここで言う「食べ方」のエッセンスは、「注意を向けて食べる」ということです。そのメソッドが「マインドフルネス=今ここに注意を向ける」です。脳科学の世界では、「熱心に好奇心を持って」と表現しますけど、ただ見るという意味の注意ではありません。注意の向け方をしっかりさせる方法を身につけ、実践します。

糖質制限は私も実践したことがありますが、体重減少という意味では大変効果的です。甘いものへの「依存」はダイエットを阻みますので、それを制限し、依存を脱すれば痩せます。ですから既存のダイエットを否定するものではありません。

ただ、それだけでは問題は解決しません。内面に満たされていないものがあるので、例えば甘いもので埋めている。そこを見つめることなしに制限をしても、すぐ脱線します。

脳にとって食は「快楽」です。本当に必要な時だけお腹が空き、食べる分だけ食べるのが正常運転だとすれば、食べ物があふれる現代において人はある意味、快楽中枢が脱線している状態です。

注意を向けた食べ方と、枯渇していた内面を満たすこと。その両方を組み合わせれば、ダイエットは成功する。本質的な変化だから長続きするのです。