時間もお金も余裕がある人は、年越しをどのように過ごしているのか。富裕層マーケティングを長く手掛ける西田理一郎さんは「富裕層の中には、大晦日に時差を利用して飛行機移動を繰り返す遊びをしている人がいる。国をまたぐことで、『1年に2回』新年を祝うのだ」という――。
2020年1月1日の大晦日にニューヨークのタイムズスクエアで行われた新年のボールドロップイベント
写真=iStock.com/Ryan Rahman
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時間は管理からハックの対象へ

私たちは普段、時間は不可逆で、全人類に平等かつ絶対的なものとして捉えている。1日は24時間であり、1年は365日。この物理的な制約の中で、いかに効率よくタスクをこなすかという「時間管理術」に汲々としているのが現代人の常である。

しかし、世界の富裕層や知的好奇心に溢れたエグゼクティブたちの視点は、決定的に異なる。彼らにとって時間は「管理するもの」ではなく、自らの移動と意志によって「ハック(攻略)するもの」なのだ。

特に年末年始という、1年で最も「時間」という概念が強く意識される瞬間において、この時差というバグを利用することは、知的な大人にとって極上のエンターテインメントになり得る。大金をかけて「新年を二度祝う」という遊びをしているのだ。この響きには、何か自然の摂理を犯すような背徳感と、時間を自らの手で支配したような全能感が同居している。

単なる贅沢なパーティーではない。これは物理学と地理学、そして強靭な行動力が生み出す「タイムトラベル」の実証なのだ。

「嵐」が挑んだ伝説のハック

このコンセプトを語る上で欠かせない、伝説的なエピソードがある。2000年のミレニアム・イヤー。世界中が新しい千年紀の幕開けに沸く中、フジテレビの特別番組『ワールドカウントダウンスーパースペシャルLOVE LOVE 2000』(フジテレビ系)で、国民的アイドルグループ「嵐」が挑んだのは、まさに「時間のハック」そのものであった。

彼らはまず、日付変更線に極めて近いオーストラリアで最初の新年を迎えた。ここでは、南半球の夏の風を受けながら約5kmのニューイヤーファンランを完走。しかし、そこで余韻に浸る暇はない。彼らはすぐさま空港へと向かい、日付変更線を東へと越えるフライトに飛び乗った。目的地はハワイである。

ここで、オーストラリア(東部標準時)とハワイの時差に注目したい。夏時間の場合、その差は約21時間。つまり、オーストラリアで1月1日の午前0時を迎えたとき、ハワイはまだ12月31日の深夜3時ごろに過ぎない。この圧倒的な時間差を利用すれば、オーストラリアで新年を祝った後に数時間のフライトをこなしても、ハワイに到着したときにはまだ「大晦日」が続いているという計算になる。

彼らはハワイに到着した後、再び大晦日の熱気の中に身を置き、二度目のカウントダウンを迎えた。そして二度目のニューイヤーファンランのスタートラインに立ったのである。相葉雅紀は後にこの経験を「そんな経験はもう2度とできないだろうな」と振り返っている(オリコンニュース、2022年10月3日)。