自分の意見を通して手柄を立てたがる人間がいたかと思えば、逆に一言も話そうとしない人間もいる。会議は参加メンバーの思惑が交錯する戦いの場でもあるのだ。ピンチに直面したときに役立つ「一言」を紹介する。
仮説で考えてみましょう
年収800万円のビジネスマンの時給がいくらかを計算してみよう。毎月22日の出勤日があって、1日当たり8時間勤務とする。「800÷12÷22÷8」という計算式から約3788円という数字が弾き出される。意外と高く感じる人が多いのではないか。
会議は一人ひとり意見を表明しながら、議題に対するコンセンサスを形成していく場である。一言も発言しない“ダンマリ君”では参加している意味がない。むしろ会議にかかった時給分だけ、会社に損失を与えていることになる。
でも、だからといってすぐにダンマリ君を批判してはいけない。「人間は自分が知らなかったことを得たときに、初めて感動したり評価したりするもの。自分が知っていることや考えていることは、どうしても素晴らしいものには思えない。特に生真面目な人や向上心の高い人ほど、その傾向が強い。むしろ、口をつぐんでしまうのは当たり前なことだと思ってほしい」と『とっさのひと言フレーズ集』の著者新田祥子さんは諭す。
つまり、ダンマリ君たちは、「何かいったら馬鹿にされるのでは……」と心のどこかでおびえているわけだ。そんな不安を取り除いてあげる言葉として新田さんが推薦するのが「仮説で考えてみましょう」。確かにこの世の中で絶対に正しいといい切れることはない。どんなに立派に思える意見や考えも、仮説の上に成り立っている。「仮説でいいんですよ」と背中を押してあげれば、ダンマリ君も安心して口を開いてくれそうだ。
一方で「この議題はお嫌いですか」と語りかける奇抜なアイデアを紹介するのがコーチング・ラボ・ウエスト会長の本山雅英さんだ。そう切り出されて、「はい」という人はまずいない。ほとんどの人は「そんなことはありませんよ」と答えるだろう。そうしたら「では、あなたはどうお考えなのでしょう」と促せばよい。その際に「仮説で構わないんですよ」と一言そえる合わせ技を繰り出せば、ダンマリ君はもっと口を開きやすくなる。
小宮コンサルタンツ社長の小宮一慶さんも、意見は仮説の上に成り立っているという点では同じ。ただし、小宮さんはそこで別な角度から注意を促す。「結論を性急に求めることは慎みたい」というのだ。たとえば、新規のプロジェクトを立ち上げる際に、経済環境などの前提条件が揃わないまま無理矢理コンセンサスを得たところで、間違った方向に進む可能性が高いからである。
会議の終了間際になっても結論が見出せないことがあった場合に、小宮さんがお勧めするのが「今日は保留にしておきましょう」というフレーズだ。前提条件が整う時期まで待つ。そして改めて意見を募り、コンセンサスを得ながら物事を判断する。近畿日本鉄道の中興の祖である佐伯勇氏の信条は「独裁はすれど独断はせず」だったそうだ。衆知を集めて、一度決めたことは最後までやり抜かせる。そんな強力なリーダーシップが発揮できたのも、議論を尽くしたうえでコンセンサスを得ていたからなのである。