自分の意見を通して手柄を立てたがる人間がいたかと思えば、逆に一言も話そうとしない人間もいる。会議は参加メンバーの思惑が交錯する戦いの場でもあるのだ。ピンチに直面したときに役立つ「一言」を紹介する。

それって、経営の本筋とは違うよね

新製品の販売価格について話し合っていたのに、ライバルメーカーのヒット商品の話題から最近の消費者の傾向、そしてご近所さんの風変わりなライフスタイルへと、話があらぬ方向へ進み始めた。しかし、雑談めいた話のほうが面白いのか、座は盛り上がる一方だ。なんとか元の方向に議題を戻したいのだが、内心焦るばかりで妙案が浮かばない。

あっちへふらふら、こっちへふらふらと迷走する、血液型でいえば“B型タイプの会議”の流れをワンフレーズでストップさせ、本来の議題に引き戻す言葉を紹介してくれるのが小宮コンサルタンツ社長の小宮一慶さんだ。小宮さんは経営コンサルタントとして数多くの顧問先を持つ一方で、上場会社を含めた十数社の社外取締役も務めている。役員会からルーティンのミーティングまで、数え切れないくらいの種類の会議に出席してきた経験のある“会議の達人”なのだ。

「ビジネスマンなら会社の経営の一翼を担っているというプライドを少なからず持っているもの。『あなたのいっていることは、経営とはあまり関係ないよね』という指摘を受けただけで、自分の誤りに気がつく。忠告するようなニュアンスは避け、さりげなくいってあげる。それだけで十分」と小宮さんは語る。

会議の目的の一つは、経営に関する共通意識を醸成すること。ライバル会社の動向といった情報交換だけなら、グループウエアなどの電子媒体上で行えば済む。あえて顔を突き合わせて会議をするのは、参加者の表情や口調から考えの裏側にある感情も読み取り、お互いの理解を深めながら、共通の目標に向けたコンセンサスづくりがしやすいから。コーチング・ラボ・ウエスト会長の本山雅英さんも、「同じプラットフォームに立っているという共通認識をできるだけ大きくすることが重要だ」という。

その際に大きなポイントになるのが、会社の理念や規範など社員がよって立つべき柱が明確になっているかどうかである。自分たちの会社が存在する社会的意義、つまり自社の“経営の本筋”が全社員の腹に落ちていれば、先の一言の効果はより大きくなる。

たとえば、世界的な医薬・医療用品メーカーであるジョンソン・エンド・ジョンソンは、「我が信条」と題した企業理念・倫理規定を掲げている。そこでは、顧客、社員、地域社会、株主の順番で負うべき責任の重さを定め、顧客に対しては高品質のサービスの提供とともに、適正な価格の維持も謳われている。

そんな同社の新製品の価格に関する会議で同じようなハプニングが起きたとしても、「我が信条」を掲げながら「経営の本筋とは違うよね」と一言いえば、話はすぐ元に戻るはずである。