自分の意見を通して手柄を立てたがる人間がいたかと思えば、逆に一言も話そうとしない人間もいる。会議は参加メンバーの思惑が交錯する戦いの場でもあるのだ。ピンチに直面したときに役立つ「一言」を紹介する。

そうか、部長たちは愛し合っていないんですね?

「あなたの考え方は、いつもどこかおかしい」

「どこがおかしいんだ。はっきりいってみろ。場合によっては私にも覚悟がある」

見解の相違から議論がヒートアップする。それが会議の議題にそったものなら構わない。しかし、次第に感情が高ぶって、日ごろ鬱積していた相手に対する不満が爆発し、周りで聞いているほうもうんざりするような、ののしり合いになることがある。よりによって、それが上司同士のものだとしたら……。

もちろん、我が強くて自分の感情をコントロールできないような“オレオレ上司”自身に問題がある。しかし、あなたが会議の進行役であるファシリテーター役を任じられていたのなら、一刻も早く本来の議題に話を戻すことが大切である。誰もが貴重な時間を割いて出席しているのだ。上司のつまらないケンカに付き合っている暇などない。

そんなオレオレ上司を一言でなだめてしまう“魔法の言葉”について教えを請うためコーチング・ラボ・ウエスト会長の本山雅英さんを訪ねた。本山さんはファシリテーターの養成講座を主宰し、数多くの人材を輩出してきた会議の第一人者。そんな愛弟子たちと一緒に頭をひねりながら、冒頭の言葉を紹介してくれた。

「上司なら誰しも部下に自分のみっともない姿を見せたくはないもの。『愛し合っていない』という一言で、部下にどう見られているかを気づかせる。たいていは『いや、そんなことはない』といって頭を.き始めるはず。すると、それまでの怒りは『自分の行動を変えなくては』というエネルギーに転換されていく」と本山さんはいう。

「愛し合って」という言葉そのものにも秘密がありそうだ。「部長、やめてください」と杓子定規にいっても感情が高ぶっているだけに、「うるさい、横から口をはさむな」と火に油を注ぐ結果に終わるはず。でも、「愛し合って」という優しいニュアンスの言葉なら、怒り心頭の上司の心の隙間にすっと入り込める可能性が高いからである。

また、『とっさのひと言フレーズ集』の著者で、人間科学に基づいた話し方の指導を行っている新田祥子さんは、「相手の存在を認めないことに結びつく否定形の言葉をなるべく使わないようにしたい。『そこまでいい合えるなんて、まるで夫婦のようですね。やっぱりお互い愛し合っているんですね』といってもいいのでは」とアドバイスする。

ならいっそうのこと、使い分けを試みてもいいのかもしれない。普段から敵対する派閥の部長同士のようなケースでは、批判の意味も込めて「愛し合っていないんですね」を、たまたま感情が高ぶって引っ込みがつかなくなってしまったようなケースでは、「愛し合っているんですね」を、という具合に。