現代社会に生きていて、ストレスをまるで感じないという人は少ないでしょう。それでも多くの人は自分なりの対処法を持っています。好きな映画を観たり音楽を聴いたり、身体を動かして汗をかいたり、自然のなかに出かけたり……こうした対処法を「ストレス・コーピング」といいます。

ストレス・コーピングは本来、誰に迷惑をかけることもなく健全にできるものであるべきです。ですが、それが問題行動となってしまう人たちがいます。

たとえば、お酒やギャンブル。どちらも「ほどほど」であればいいのですが、ストレスが解消されないかぎりそれでは終われないのです。買い物やネットゲームもそうです。自分の経済力に見合った範囲であればストレスは発散されますが、支払能力を超えたショッピングや課金をしてしまうのは問題です。

「加害者のストレスなんて知るか」では解決しない

他者に加害行為を繰り返すことで、ストレスに対処しようとする人もいます。痴漢といった性暴力を通して自分より弱い者を支配し、いじめることで得られる優越感をストレス・コーピングとしている人については、拙著『男が痴漢になる理由』で「誰もが内在している加害者性」として詳しく解説しました。

万引きも被害者が出る犯罪行為であり、社会的損失も大きいことは間違いありません。毎日のように商品を盗まれる側の人たちからすると、ストレス発散のために盗んでいると言われたところで、とうてい納得できないでしょう。

しかし、依存症の本質のうち、ある側面は、このストレス・コーピングにあることを私たちは理解する必要があります。加害者のストレスなんて知ったことではない、と言いたいところですが、問題解決のための根本的なイシューが隠れているのです。

斉藤 章佳(さいとう・あきよし)
精神保健福祉士・社会福祉士
大森榎本クリニック精神保健福祉部長。1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなどさまざまアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)などがある。
(写真=iStock.com)
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