日常のなかでストレスを晴らすために盗む

Aさんの場合は、夫が軽い気持ちで言ったことを本人が深刻に受け止めたのが事のはじまりでした。一方、主婦・Bさんは、夫から節約を強要されていました。夫は毎日、妻の財布からレシートを抜き出してチェックし、もっと出費をおさえられたはずだと妻を罵りました。経済的DVです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/MachineHeadz)

Bさんがいくら節約に努めても、夫は一切認めません。「こんなにがんばっているのに」――そう思いながら、Bさんははじめての万引きをしました。

Cさんの夫には、ギャンブルで作った借金がありました。深刻な額ですが、それでも夫はギャンブルをやめませんでした。Cさんが1円単位で切り詰めても、夫は3万円、5万円と平気でギャンブルに使ってしまいます。そのうえ夫の母親の介護、息子の結婚式の準備など、家族関係のタスクがすべてCさんの肩にのしかかっていました。

夫とお金のことで口論になるたびにスーパーでちょっとしたお惣菜を盗む。そうすると心がスッと軽くなることにCさんは気づきました。おまけに食費の節約にもつながります。万引き行為に依存するようになるまで、時間はかかりませんでした。

依存症の背景には必ず「人間関係」がある

こうして見ると彼女たちが万引きをはじめたのは、節約そのものではなく、その背景にあるものがきっかけとなっていることがわかります。それはつまり「夫」です。

さまざまな依存症を治療する現場に長年携わってきて、私は、依存症の問題をたどっていくと必ず人間関係に行き当たると考えるようになりました。なかでも多いのが、家庭内における家族との人間関係です。

この考え自体は特に新しいわけではなく、1990年代にはすでに、依存症と機能不全家族で育った子どもとの相関性が盛んに指摘されていました。AC(アダルト・チルドレン)のことです。ですが、私が臨床の現場で、特に行為・プロセス依存がある人たちからそのバックグラウンドを聞いていると、必ずしもそうした家庭に育っているわけではないということに気づきました。

虐待やDVがある家庭の影響でアルコールや薬物、ギャンブルに耽溺するというのは、ある意味わかりやすいストーリーでしょう。しかし実際には一見、問題のなさそうな家庭にも依存症の種があり、なにかきっかけがあれば芽吹いて、成長していくのです。