「褒めて見守る文化」が人を育てる

──ANAは「褒める文化」で人を育てるとうかがいました。

ANAでは社員が「グッドジョブカード」を持ち、職場でいい仕事をした人にカードを渡して褒める文化があります。私自身もよく渡しますよ。17年、あるお客様がご搭乗される便にイレギュラーな事態が発生したことがあり、伊丹空港の旅客係員の女性が素晴らしいケアをしてくれたと聞いたので、人づてにその係員にカードを渡しました。先日、大阪出張に行ったら、事務所に彼女の「うれしかった」という感想が貼ってあった。人間は褒められると元気が出ます。まだ直接話せていないのですが、何かつながりができた感じがして、私もうれしいです。

──叱るのはよくありませんか。

もちろん鍛えることは大切です。私はガーデニングが趣味。植物は剪定によって強い芽が出ますが、人も同じで、剪定しないと伸びません。ただ、でたらめに切ると枯れてしまうので、その人の原動力になるところは残す必要がある。どこを切るか、マネジャーの力量が問われます。

本人の心構えも重要です。異文化に触れてカルチャーショックを受けたとき、人の態度は2つに分かれます。嫌悪感を抱いて遠ざかるか、共鳴して自分もそうなりたいと頑張るか。後者を私は「発心」と呼んでいて、毎日発心する人は成長します。挫折が人間を強くするという面もありますが、私はもっとポジティブなほうが伸びると思う。異なるものに出合って感動したら、自分の中に取り込んで高い目標にしていく。その瞬間が多いほど活躍する人になれるはずです。

──片野坂社長ご自身は、これまでどのような鍛えられ方をしてきたのでしょうか。

若手時代は鍛えられるというか、うまく仕事を任せてもらえた記憶が強いです。印象に残っているのは、入社5年目に異動した経営企画室。15年先輩の相馬さんという方は、私に仕事を命じておいて、自分は19時くらいから将棋を指すんです。私の作業をのんびり待って23時になったら「できたか?」と声をかけてきて、よければ食事に連れていってくれる。1人で週末出勤して資料作りをしていたら、電話をかけてきて月曜の朝に間に合うように徹夜で手伝ってくれたこともありました。監視というより見守るという距離感で、仕事がとてもやりやすかった。あの距離感がマネジメントの神髄という気がします。

▼QUESTION
1 生年月日、出生地

1955年7月4日、鹿児島県
2 出身高校、出身大学学部
ラ・サール高等学校、東京大学法学部
3 座右の銘
志千里に在り
4 座右の書
『徳川家康』山岡荘八
5 尊敬する人
西郷隆盛
6 私の健康法
腕立て伏せ、屈伸など、毎朝の体操
片野坂真哉(かたのざか・しんや)
ANAホールディングス 代表取締役社長
1955年、鹿児島県生まれ。東京大学法学部卒業後、79年全日本空輸(ANA)に入社。2004年人事部長に就任。上席執行役員、常務、専務、ANAホールディングス副社長などを経て15年4月から現職。趣味は音楽鑑賞とガーデニング。
(構成=村上 敬 撮影=的野弘路)
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