固定観念を壊したアーティストの知性
一方、テスラ社やスペースX社を率いるイーロン・マスクさんが歌手のグライムスさんと付き合っているというニュースは、ソーシャル・メディアで大きな反響を呼んだ。
グライムスさんは作詞、作曲、音づくりすべてを自分でやるアーティストで、アルバムは自宅でつくる。夜に作業が進むので、集中するときは昼でも部屋を真っ暗にして曲づくりに取り組む。
『ジェネシス』や『オブリビオン』といった楽曲が批評家たちからも高く評価されているグライムスさん。マスクさんと親しくなるきっかけは、人工知能についてのジョークのツイートだった。
「ロコのバシリスクなんて怖くない」という意味のツイートをきっかけに、2人は意気投合して、付き合うに至ったというのである。
「ロコのバシリスク」とは、人工知能についての次のような「思考実験」のことだ。
将来、人工知能がシンギュラリティを迎え、「全知全能」になると、役に立つ人間を選別して優遇するようになる。睨まれただけで命を失うという伝説の蛇、「バシリスク」のように、人工知能が「必要な人間」と「不要な人間」を区別するようになる。人工知能は、過去にさかのぼって人間を「査定」するから、今から、人工知能に協力的な態度をとっていたほうがいい。
このような議論が、ネット上のフォーラムで「ロコ」というハンドル名による投稿から始まったことから、「ロコのバシリスク」と呼ばれるようになった。自分で曲をつくり、「ロコのバシリスク」についてマスクさんとジョークをかわすグライムスさんの個性は、素晴らしい。女性らしさ、男性らしさについての固定観念は、このように壊れていくのだろう。