【よしたに】ズバリうかがいますが、Ponanzaが電王戦で勝てた理由はなんでしょう?

【山本】うーん……説明できないんですよね。人工知能はブラックボックスみたいなものなんで。人工知能の指し手は、「学習した」結果がパラメータに反映されたものですから、人が読んでも理解できないんです。ただ、同じ人工知能なら、10局より1000局学習したほうが強いに決まっています。人間が学習できる量には限界がありますが、人工知能にはありません。だから、事前学習だけは死ぬほど回数を回しています。そういう意味では、勝てた理由としては「数を回す環境をつくったから」ということでしょうか。

【源】回数を回せる環境って?

【山本】Ponanza開発を仕事にしたこと、ホスティング会社に事前学習用のサーバの供与をお願いしたこと、体調管理などなどです。

【よしたに】全部コンピュータの外の話ですけど、山本さんご自身がエンジニアとしてすごかったからなのでは?

【山本】人間って、そんなに差がありますかね? 戦略やメタ構造を考えるのが好きなだけで、僕自身は才能がないと思っています。

【よしたに】なるほど……でも、山本さんに才能がないというのなら、僕なんかなんなんだという(笑)。山本さん的には、当たり前のことを当たり前にやっただけなんでしょうけれど、それってずっと逃げなかったってことですよね。

【山本】いやー、ほかの人ももっとできると思うんですけど……。

【よしたに】山本さんって、自分も他人も同じ物差しでぶっ叩く人ですね(笑)。

【源】Ponanzaが将棋界に与えたインパクトをどうお考えですか?

【山本】歴史上10位には入るくらいですかね。研究に使われることも多くなっていくでしょう。

【よしたに】さらっとすごいことを……。

人間をいたぶるようなことはよくない

Ponanzaの開発は2017年11月に終了した。その理由とは? (C)よしたに

【源】いま話題の藤井聡太六段の独特な指し回しも、コンピュータ将棋を研究してからだそうですね。

【山本】「コンピュータ将棋には物語がないから学べない」と言う棋士もいますが、藤井六段は若いからスルスルっと覚えちゃうんだと思います。

【よしたに】Ponanzaの開発は2017年11月に終了しましたが、名人に勝ったので満足したから、ということでしょうか?

【山本】はい! 次の戦う場所が必要でしょう!

【源】本当に未練がないんですね。いつか羽生さんと対戦するかと思っていたのに……。

【山本】僕の軸足はあくまで人工知能にあるわけです。AI技術者としては、「人間をいたぶる」ようなことはよくないと思うんです。コンピュータ将棋は、もう名人相手でも100回やって100回勝つレベルです。これはもはや「いたぶる」と言っても言い過ぎではありません。非常によろしくない。「人間vs人工知能」という構図は役目を終えたと思っています。