※本稿は、よしたに『新理系の人々 すごいぞ!日本の科学最前線』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
ものすごく弱かったPonanza
【よしたに(漫画家)】電王戦、僕も一観客として見てましたが、「ついにここまでプロを追い込んだか!」と感慨深いものがありました。
【源(編集者)】将棋にそんなに詳しくない私も引き込まれてしまいました。山本さんご自身も将棋をされるんですよね?
【山本(「Ponanza」の開発者)】将棋は10歳の頃に始めました。勝っても負けても自分のせい、というところが楽しかったんです。結局、アマ五段までいきましたね。
【よしたに】その延長でコンピュータ将棋をやるようになったんですか。
【山本】僕が大学生のとき、コンピュータ将棋はアマチュアのトップレベルに迫ろうとしていたんですね。なので、アマ五段の知識とコンピュータの知識があれば、もしかしたらプロにも届く強いソフトができるかもしれない、と考えました。そして半年後に「Ponanza」というソフトが完成しましたが、むちゃくちゃ弱かったんです。アマ五段がトッププロ相手に楽勝できるレベルの8枚落ちでも勝てなかったくらいで。
Ponanzaに負けたときの悔しさと喜び
【源】それでもあきらめなかったんですね。
【山本】このままじゃ数年がかりになると思って、何か別の新しいアプローチを探したところ、機械学習にたどりつきました。機械学習は、「どう指すか」をプログラムせず、プロの指し手を正解として教え、新しい局面でも過去の似たような場合での正解から正しい指し手を類推できるようにした仕組みです。そうして開発開始から2年たって対局したところ、僕はPonanzaに負けました。
【よしたに】どんな気分でしたか?
【山本】これほどの悔しさを味わったのは初めてでしたが、それをはるかに上回る喜びを感じたこともありませんでした。