スキャンダルや不祥事のたびに開かれる記者会見。その目的は事態収拾のはずだが、会見する側の態度や発言によって、むしろ問題が“炎上”してしまうことも珍しくない。成否をわけるポイントはなにか。危機管理のプロで、その経験を小説『スキャンダル除染請負人』(プレジデント社)にまとめた田中優介氏は「記者会見では絶対口にしてはいけない4つのNGワードがある」という。その内容とは――。

トップの失言が経営にダメージを与える

現在は、あらゆる企業にとってスキャンダル(不祥事)に対する危機管理が必要不可欠な時代に突入しました。対応をひとつ間違えただけで、トップをはじめとする経営陣の辞任、消費者からの信頼やブランドの失墜、人材の離反、業績の悪化、株価の暴落、最悪の場合は倒産などに追い込まれることもあります。とりわけ現代のネット社会では、ひとたび“炎上”してしまうと、手の施しようがなくなるケースもあります。

写真=iStock.com/RichLegg

このほど上梓した『スキャンダル除染請負人』では、企業が不祥事(スキャンダル)に直面した際に取るべき危機管理対策をいくつかのケースごとに紹介しています。

危機管理の生々しい現場を臨場感もって理解していただくため、橘沙希という架空の危機管理コンサルタントを主人公に据えた経済小説という形で執筆しました。取り上げたケースは、経営者の不倫スキャンダル、風評被害、顧客データ流出、自動ブレーキの誤作動クレームなど、いずれも近年頻発している問題であり、解決策は私たちが実際に用いたものをベースにしています。

ここでは、その中から「経営者の不倫スキャンダル」のエピソードを選んで、“炎上しない記者会見”のやり方を解説します。

“岸”という発想を持ち、誰に謝罪すべきかを考える

すがる表情の三波に、沙希はマスコミ対応の要点を意識的に厳しい口調で語った。
「第一に、嘘は絶対に言わないで下さい。新たな罪を犯すことになりますから。第二に、“岸”という発想を持って、誰に向かって謝罪すべきかを考えて下さい」
「……岸ですか?」(第1章 不倫未遂の罪より引用、以下同)

著名な女子サッカー選手である吉田茜とホテルで“密会”する姿を週刊誌に撮られてしまった製薬会社社長の三波。相談を受けた危機管理コンサルタントの橘沙希は、三波に対し、マスコミ対応の要諦を指導します。

ここでいう「岸」とは、加害者と被害者という2つの岸を指します。

ややもすると加害者が社長の三波、イメージダウンする吉田選手が被害者と考えがちですが、企業の危機管理という側面から見れば適切ではありません。

この場合の加害者は三波社長と吉田選手、および彼女が所属するサッカーチームの監督やフロントであり、被害者は三波社長の夫人、そして日本中の主婦と考えるべきです。