スポーツ産業は、有望な成長産業だ
小泉政権下で「国民スポーツ担当大臣」でもあった麻生太郎首相は、本書の冒頭で次のような問題意識を述べている。いわく、日本では〈教育の場に「体育」しかなく、「スポーツが不在」〉だったため、欧米と比べてその社会的意義が小さいままなのではないか、と。本書の監修者・江戸川大学スポーツビジネス研究所所長・北原憲彦教授によれば、こうした体育とスポーツの違いはよく指摘されることだという。
「教育の一環である体育は『自分がするもの』という印象が強い。一方でスポーツとは本来『見られるもの』であり、根本的に発想が異なるからです」
もちろん、体育には良い面もたくさんあると彼は続ける。例えばどの学校にも体育館やプールがある国は、世界でも類を見ない。おかげで日本の子供のスポーツ実施率は、欧米に比べてもずっと高い。
「だからこそ潜在力を活かすためにも、『するスポーツ』だけではない視点が必要なのです」
様々なスポーツ業界関係者へのインタビュー、研究者による論文などを収録した本書は、スポーツをあくまでも「ビジネスの視点」からとらえた1冊だ。
「なるべく広い領域をスポーツビジネスととらえました。野球やサッカーはもちろん、フィットネスクラブやテレビゲームまで。用品や広告などを含めると、その規模は10兆円前後になるという試算もあります」
ではこのスポーツ産業では今、どのような発想や人材が求められているのか。今回3冊目となる『スポビズ・ガイドブック』では福岡ソフトバンクホークスの笠井和彦社長をはじめ、「現場」で実際に活躍する人々が異なる立場から展望を語っている。
「総論としてスポーツ産業で求められているのは、スポーツ好きや『スポーツマン』の人材ではないということ。それが関係者の共通の意見です」
例えば千葉ロッテマリーンズは中途採用の募集広告を日経新聞に出し、MBAの用語を要項に入れ込んだ。「スポーツビジネスの世界が、良質なビジネスパーソンを強く求めるようになった象徴的な例」だという。
そんななか、近年は大学でも「スポーツ学科」を独立させる動きがあるが、「将来スポーツに関係する仕事に就きたいのであれば」と北原教授は続けた。
「『見るスポーツ』『支えるスポーツ』といった視点を持てば、どんな業界からでもスポーツに関わる仕事はできるはず。その可能性を開くためにも『するスポーツ』だけではなく、経営の知識やマネジメントのスキルといった、一般企業で求められる能力を磨くことが大事。スポーツ産業で働きたい人へ伝えたいメッセージですね」