桁違いの成長を続ける破壊者。台湾企業に注意せよ
本書を目にしたとき、ずいぶん思い切ったタイトルをつけたものだなと感じた。日本の製造業に関しては、楽観論、悲観論入り乱れているが、単刀直入に「ガラパゴス化」と銘打った本は初めてではないかと思ったからだ。
ダーウィンの『種の起源』で有名になった南米ガラパゴス諸島は、外界から遮断されて独自の生態系が維持され、進化から大きく取り残された。それと同じように、日本の製造業も独自の製品群を生み出しているものの、グローバルな競争には適応できない可能性がある、とガラパゴスに重ねて著者の宮崎智彦さんは論じている。
「私も結果的に間違ったのですが、2000年前後にiモードやカメラ付き携帯電話が出て、これはすごい、もう世界の2周ぐらい先をリードしていると思いました。ところが、現在は韓国サムスンの年間2億台に対して、パナソニックは1000万台程度、あまりに落差が大きすぎます。ある日気づくと、カーナビもパソコンも同じような道を辿り、それでガラパゴス化を意識したのです」
それからアナリストの目で、執拗な調査を開始する。韓国、台湾、中国企業へと調査対象を広げ、産業構造を破壊するともいわれるアジア企業の実態を徹底分析した。
その結果、明快に浮かび上がってきたのが、エレクトロニクス産業における台湾企業の目を見張る躍進ぶりであった。「新たなビジネスモデルを創造したのは、韓国ではなく、まぎれもなく台湾企業」と強調するように、「基本的に米国が設計し、台湾が製造する」水平分業モデルを確立したことが、今日の躍進につながったとみる。
「例えば、生産受託専門企業のホンハイは07年の売上高が約6兆円で、成長率は前年比29%と高水準でした。今年の予想である7兆円は金融危機の影響で微妙ですが、前年比20何%の伸びなんてこの市況ではありえない話、桁違いですよ」
台湾企業の水平分業に対し、設計から製造まですべてを社内に抱え込む垂直統合型の日本企業は、ガラパゴス化が避けられないのか。この点をずばり質すと、「韓国が経験したIMF危機のような、ある程度のショックがないと動かないかもしれません。日本企業には変化を嫌う風土が残っていて、私はかなり悲観的に見ています」と厳しい見方を示した。
東大で理論物理を専攻した宮崎さんは、「少ない情報の中から仮説を立てて分析し、物事の本質を見抜くのに大学時代の勉強が役立っている」と話す。その分析力でガラパゴス化を避ける日本企業の究極の処方箋を明らかにしてもらいたい。