日本はお人好しゆえ、中国に併合されるのでは?

「外交や政策は、その動機が焦点になります。モスクワでの大学時代、教授が“国益から見るとどうか”とよく言っていた。国益とは結局、お金がもうかるか、安全確保に繋がるか。この2つに帰結させると、物事がよく見えてきます」――国際関係アナリストの北野幸伯さんは、旧ソ連でゴルバチョフ書記長が台頭してきた1980年代末、「ベルリンの壁が崩れるのを見て」ソ連入りし、モスクワ国際関係大学に入学。以来、ソ連崩壊からプーチン時代まで、生でつぶさに見てきた。

<strong>北野幸伯●きたの・よしのり</strong><br>国際関係アナリスト。1970年生まれ。ロシア外務省付属モスクワ国際関係大学卒業(政治学修士)、カルムイキヤ自治共和国大統領顧問に就任。99年、無料メールマガジン「ロシア政治経済ジャーナル」を創刊。2003年、コンサルティング会社IMT設立。著書に『ボロボロになった覇権国家』『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす』。
北野幸伯●きたの・よしのり
国際関係アナリスト。1970年生まれ。ロシア外務省付属モスクワ国際関係大学卒業(政治学修士)、カルムイキヤ自治共和国大統領顧問に就任。99年、無料メールマガジン「ロシア政治経済ジャーナル」を創刊。2003年、コンサルティング会社IMT設立。著書に『ボロボロになった覇権国家』『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす』。

「ロシアではアメリカ・イギリスに対してタブーがないのが素晴らしい。9.11同時テロについて、日本でだったら陰謀説とかトンデモ説といわれる自作自演説を国営テレビ局が流すくらい。同じ事件に関する報道の中身が180度違う」

例えば、リトビネンコ事件は日本や米英ではプーチン前大統領とFSB(ロシア連邦保安局)が犯人とされるのに対し、ロシアではベレゾフスキー(プーチンに追放されたロシアの政商)かイギリス情報部の仕業というのが定説。先のグルジア情勢でも、「ロシアがグルジアを攻めた」に対し「南オセチアに侵攻し、ロシアの平和維持軍に空爆を加えたグルジアにロシアが反撃した」と報じられる。そんな複眼的思考を強いられるモスクワを拠点に、「ロシア政治経済ジャーナル」と題したメルマガを主宰。日本人には鬼門でもあるこのジャンルには珍しい、軽妙な筆致で人気を集めている。

<strong>『隷属国家 日本の岐路』 北野幸伯著</strong><br>
ダイヤモンド社 本体価格1500円+税

3冊目の著書となる本書では、ごく最近の国際情勢の流れが簡明率直にまとめられている。軽いタッチは変わらないが、「今度は中国の天領になるのか?」とサブタイトルは挑発的だ。早くからドル=アメリカ凋落を唱えた北野さんは「日本の指導者はアメリカに代わる依存先を探しているのでは? お人好しゆえに中国に併合されるのでは?との不安を感じる」という。

その流れに抗するかのように、最終章でいかに世界が日本に好意的か、アメリカというフィルターが、いかにこれまで日本人の眼を曇らせていたかを説く。

「日本のことが嫌いな国は、中国・韓国・北朝鮮ぐらい。ロシア人も日本が好き。地下鉄で村上春樹を読む人を見かけるし、北野武の映画はインテリ好みとされている。ヤクザが乗りたがる車はベンツではなくトヨタのランドクルーザー。中央アジアでは、“自分たちと同じ顔付きなのに奇跡の経済成長を成し遂げた国民”として神様のように扱われますよ」

他国のマネは必要ない。自虐してみせても始まらない。ナショナリストならずとも勇気付けられる1冊である。

(奥村 森=撮影)