世界は変わった。デジタルプロレタリアートよ、蜂起せよ
「ついに書きなおすときがきた――」。帯の惹句にその旨の記載がある。
15年前に上梓され、100万部をゆうに超えるベストセラーとなった『「超」整理法』は、封筒を少々加工しただけの袋ファイルを「ひたすら並べる」という手間いらずな原則に従い、紙の書類を時系列で管理する手法を提案した。この方式は必要な書類を見つけやすくコスト面でも安価に実現できるため、現在でも愛用者が少なくない。
その著者である野口悠紀雄さんは今回、同書を「超」えるに至った理由をこう語る。
「紙の資料に対する袋ファイルの有用性は今でも変わりません。ただ、IT技術の発展で状況は一変した。デジタルデータの利用が急増、活用する環境もいつのまにかできていたのです」
手に入れた次の「道具」とは、奇しくも創業10年を本書の発刊と同時期に迎えた寵児、グーグルだった。野口さんは、同社が提供する「グーグルメール」を使った情報の一元管理を勧める。個人でも手軽に強力なデジタルオフィスを構築できるのだ。
「私が『こうもり問題』と呼ぶやっかいな問題があります。かつてなら、たとえば財政とマクロ経済、2つのトピックにまたがる情報でも1つの袋、パソコンでいうフォルダに分類しなくてはならない。だから整理はできない、ただ並べよ、こう言っていたのです。しかし、検索技術の向上で解決策ができました。財政とマクロ経済という2つのラベルを貼ることができる。必要なキーワードですぐフィルタリングできます」
ただ大事なことは、手法そのものより「世界が変わった」ことを認識し、行動を起こすことだと野口さんは言う。本書の後半は、ほぼその点に充てられた。
「こうもり問題は個々のビジネスマンにも当てはまります。たとえば『モノづくり』なら、それしか見ずに他のことはわからない。こうもりが生きる社会にしないと活力は生まれません」
1つのフォルダという蛸壺に入り込んでしまわずに、時代に応じてラベルが貼りかえられる人間でなくてはならないのだ。
「残念ながら、日本の大企業がこれらの技術を活用できるようになるのはずっと先のことでしょう。これでは米国との生産性の格差は広がる一方。グーグルと日立では従業員1人当たりの時価総額に120倍もの開きがあります。日本のホワイトカラー、すなわちデジタルプロレタリアートたちは、能力は高いのに搾取されている。先進技術の恩恵に与るために立ち上がらなくてはなりません」
「革命を起こせ」。野口さんは、温厚な佇まいからは想像もつかない過激な言い回しで危機感を露わにし、発信を続ける。