部下のミスを指摘するときに「それ全然ダメ」と言ってしまえれば上司としては楽でしょうが、現代ではそうはいきません。過剰にサービスを要求されるのも、必要以上に傷つかれるのも、それはそれで生きにくい社会といえなくもありませんが、今後そのような傾向が逆行するとは考えられません。

むしろ自分にとって不機嫌がいかに損かということを理解し、上機嫌を目指すほうが、はるかに有益といえるでしょう。

この10年で言葉の「負の破壊力」が格段に増大した

若者の傷つきやすさの話に関連して、もう一つ強調しておきたいことがあります。それはこの10年で、言葉の負の破壊力が格段に増大したということです。

私も講演会や授業のたびに、言葉によって相手を傷つけることのないよう細心の注意を払っています。

たとえばゼミの学生の一人が発表のプリントを忘れてしまうということは多々あります。これまででしたら、教師はストレートにこう言っていました。

「なんで忘れたの? 先週ちゃんと言ったよね。プリントがないと進められないよ」

目に見えて不機嫌さをあらわにしなくとも、「好ましくない」ということを強調して伝えていたわけです。いわゆる「説教」です。

しかし今の時代、説教ほど危険なものはありません。相手は傷つくのみでこちらの真意は伝わらず、その後の関係性がギクシャクしてしまう、もっと悪いと保護者が出てきて周囲を巻き込む問題に発展する、こうしたことは今さまざまな教育現場で起こっています。

不機嫌を退けるうえで、ジョークは大きな味方

そんなに傷つきやすい相手に対して果たして「指導」ができるのか? と不安に思う方もいるでしょう。しかし不機嫌を使わずに、言いたいことを伝えることはいくらでもできます。

「了解しました。今日はプリントなしでこうやるけれども、次からはこうして来てくださいね」といったフラットな言い方をできれば、及第点。

もっと効力があるのが、ユーモアを交えてミスをただすことです。

不機嫌を退けるうえで、ジョークは大きな味方です。ジョークを言えるということは、「自分は事態を客観的に把握し自己をコントロールできています」と相手に示すことにもつながります。

はっきりとわかる形で冗談を言えると、そのことで笑いが起きて、全体の空気が良くなります。教室において、教師は場を支配するリーダーです。たとえ指導のためであっても、教師が不機嫌になれば、空間全体の空気がよどみ、その不機嫌の対象となっていない学生にまで、不機嫌パワーを及ぼしてしまいます。