「自分に価値がある」と思うことが大切
――『嫌われる勇気』は、幅広い世代の悩める人々に向けられた本でした。今作『愛とためらいの哲学』は、特に若い世代に向けられた本ですね。私はよく世間で言われる「恋愛・結婚しない若者」の1人なので、岸見先生のご意見をうかがいたいと思っています。
【岸見】わかりました。本書が若者を読者に想定しているのはたしかです。というのも、本書を担当した編集者は26歳で、「ためらい」は彼がこだわった言葉なのです。若者は「ためらい」があるので、恋愛しない。もしくは、結婚しない。もっと勇気を持ってもいいのではないか。本書のメッセージの1つです。
ところで、あなたはどうして恋愛しよう、結婚しようと思わないのですか?
――「自分に恋愛・結婚する価値がない」という考えに陥っているのかもしれません。容姿や職業、収入にしろ、こんな自分が他人と恋愛ができない。結婚に資するものがない。さらにいうと、そのようなコンプレックスをよく言い訳にしています。
【岸見】なるほど。アドラーの教えでいうと、そもそも「自分に価値がある」と思えてこそ勇気を持てるし、幸せになれる。もし、自分に価値がない、と思っているのなら恋愛にとどまらない問題ですね。そしてその価値とは、職業や収入といった「属性」ではありません。自分に価値があるかどうかは、自分自身で決めるものです。
恋愛に対して、自信が持てないのでしょうか。自信のある人は、1人2人に振られても構わない、と思います。自信がない人ほど、「この人に振られるともう次はない」と思い悩んでしまう。相手が「好きだ」と言ってくれなければ、もうこの世の終わり。だから「あえて告白しない」。告白しない理由を「自分で自分が好きになれないのに、どうして他の人が好きになってくれるのか」と考えて、勇気を振り絞る前に納得してしまう。
若者は「言い訳」を探している?
――「ためらい」というか、むしろ言い訳を探しているのかもしれません。さらにいうと、恋愛を優先順位の下に置いているのだと思います。恋愛よりももっと大事なものがある。仕事や趣味が優先で、恋愛は二の次だと。
【岸見】アドラーは、仕事の課題と恋愛の課題は等価だと考えます。本来、その課題を比べて、何が優先されるべき、というわけではありません。