また、アドラーは人生には3つの課題があるといっています。仕事、交友、愛の3つです。3つの課題に共通することは、「成功-失敗という軸で考えてはいけない」ということ。

例えば恋愛について、女性から「あなたのことを男として見たことがない」などと言われれば、プライドは傷つくでしょう。でも、一度の失敗であきらめてはいけません。そもそも振られることが「失敗」だとは思わないですけどね。私が結婚したときも、「無理かもしれない」と思ったけれど、思いがけずOKが出た。恋愛や結婚している人で、そういう経験をした人は多いと思います。

はじめから完全な相思相愛でつきあうなんて、ほとんどありません。そして、「勇気」がなければ、次はない。一度断られても、それでもなお誰かを愛することをしないと、将来は描けない。相手があることですから、つきあえるかは分からないものですが、嫌われることを恐れる人がいまは多いのでしょうね。「恋愛よりも仕事」という考え方も、誰かに嫌われるのを恐れるあまり、仕事を恋愛しない言い訳のひとつにしているのかもしれません。

属性を価値だと勘違いしていないか

――恋愛指南では「数を打て」というアドバイスも見かけます。

【岸見】1つの方法かもしれません。今はSNSやマッチングアプリ、結婚相談所も一昔前より身近なものになったらしいですね。実際につきあう例も増えているようです。

先ほどの「価値」の話でいうと、マッチングアプリにしろ結婚相談所にしろ、まず自分の属性を書かなければいけません。職業、年齢、年収……数字や肩書を書くうちに自信を失い「自分には無理だ」と思うかもしれない。しかし、そんなことを自分の「価値」なんだと気にしていては、「幸福」になれません。

本にも書いた通り、哲学者の三木清は「幸福」と「成功」を対峙させて考え、幸福を目指すべきだと言っています。幸福を考えれば、職業や年齢は関係ない。しかし、今の世の中では、多くの人が成功に価値があると思っている。だから、つきあうことも、成功か失敗かで考えてしまう。例えば、年齢を重ねるごとに、自分の価値が目減りして価値が下がり、成功する確率が下がる、というふうに。

――「出会いがない」というのも言い訳にしがちです。それでも、マッチングアプリや結婚相談所に踏み出すのは、心理的なハードルがあります……。

【岸見】無理に出会おうと言うよりは、まずは自分の好きなこと、趣味的なサークルで出会って恋愛する、というのは理想のひとつかもしれません。私自身、結婚したのは大学の同じサークルにいた人でした。