米国と中国の「貿易戦争」への懸念が強まっている。しかし三井住友アセットマネジメントの市川雅浩シニアストラテジストは、「双方とも制裁措置の発動は一部猶予しており、『貿易戦争』という見方は行き過ぎだ。このため日経平均株価は持ち直し、2019年3月末には2万3300円程度になるだろう」という――。

米国が矢継ぎ早に強硬な通商政策

トランプ米政権は発足2年目となる今年、強硬な通商政策を実行に移し始めた。年初からここまでの動きを振り返ってみると、以下の通りになる。

まず、トランプ米政権は1月22日、通商法201条に基づき、太陽光パネルに緊急輸入制限(セーフガード)を発動すると発表した。背景には、安値攻勢をかける中国企業によって米国内の産業が被害を受けているとの懸念があったと推測される。また、住宅用の大型洗濯機にもセーフガードの発動を決定したが、これは韓国の家電大手を念頭に置いた措置であろう。

次に、トランプ米政権は3月1日、安全保障を理由として、通商拡大法232条に基づき鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を発動し、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の追加関税を課す方針を表明した。輸入制限は3月23日に発動されたが、鉄鋼とアルミニウムは中国製が標的とみられ、カナダ、ブラジル、メキシコ、欧州連合(EU)、オーストラリア、アルゼンチン、韓国の7カ国・地域への適用は5月1日まで猶予された。なお、中国と同様、日本にも猶予期間が設定されなかったが、日本製は高性能のため、関税引き上げでも需要はあるとの見方が多い。

そして、トランプ米大統領は3月22日、中国による知的財産権の侵害を理由に、米通商代表部(USTR)の報告に基づき通商法301条を発動し、中国製品に制裁関税を課す大統領令に署名した。この措置は、(1)中国の不公平な技術移転の慣習を世界貿易機関(WTO)に提訴する、(2)少なくとも500億ドル相当の中国製品に対する25%の輸入関税を導入する、(3)最新技術の取得を狙う中国企業による対米投資を制限する、の3点がポイントである。

その後、USTRは4月3日、対中制裁関税の対象となる具体的な品目を公表した。対象品目は、産業用ロボットや航空宇宙分野など約1300品目にわたり、中国の重点育成産業を狙い撃ちした格好になっている。また、制裁対象の総額は500億ドル規模に達しており、中国からの年間財輸入額の約1割に相当する。中国は産業の高度化を目指す「中国製造2025」という長期戦略を2015年に発表しており、トランプ米政権がこのような措置を打ち出した背景には、ハイテク分野における将来的な中国の躍進に対する強い危機感があると考えられる。