改革案が了承を得ると、各店のマネジャー級を10人集め、具体的な進め方を詰める。事前に社長に説明した際、「全部の職場ではなく、まずモデル売り場でやれ。モデルで成功させないと、みんなが頷かない」と言われていた。確かに作業の標準化を1つとっても、職場ごとに工夫してきたことが否定される形になるから、「これでやれているのに、何で変える必要があるのか」と抵抗が出やすい。だから、改革の旗振り役になる前に梅田店で担当したハンカチやスカーフ、傘などの婦人雑貨を、モデル売り場に選んでいた。

「2割が動いたら、改革は前進する」

接客とレジの処理、伝票の作成など、社員とアルバイトの役割分担が明確になると、1日の接客時間が8割も増えた例もあり、業績が半年で上がった。だが、改革は緒に就いただけ。婦人雑貨での成果を全店のすべての売り場に展開しないと、危機感への答えにはならない。次の舞台は、大阪府高槻市の施設で重ねた研修だった。

各店の部長級に始まり、課長やマネジャー、売り場の販売リーダーらを順番に集め、改革案の趣旨や進め方を説明した。毎日のように夕方に担当時間を設けて、本社での仕事を切り上げて研修所へいき、1度に100人ほどを前に話す。夜もグループ討論があり、そこにも参加する。週3日は泊まり込み、朝は研修所から出社した。

実は、「2割の人が心底から頷いたら、改革は前進する」と思っていた。40人いたら、8人がやろうとなれば、職場は動き出す。その2割を、研修で確保したい。だから、改革が軌道に乗ってからも研修を続け、ほぼ全社員が3度も4度も聞いたことになる。すべては、変化に自在に応じていく文化を、定着させるためだ。

「兵形象水」(兵の形は水に象る)――戦いにおける陣形は水の有り様を写しとることだ、との意味だ。中国の古典『孫子』にある言葉で、水が地形の変化に応じて自在に流れを変えるように、壁のように手強いところは避け、まだ手薄なところを攻めるように、と説く。「お客の本当のニーズに近づいて、最大の満足を得てもらう」との基本に立ちながら、成功体験にしがみつく消耗戦は避け、時代の変化に応じて進路を自在に変える山本流は、この教えに通じる。