「やりたいことを、やってやろう」

会社を一気に大きくしたい、あれもこれも手がけたい、すべてを自前で揃えたい――それなりの成功を収めた経営者が、陥りがちな罠で、つまずいた例は数多い。半導体基板の洗浄装置で圧倒的な世界シェアを持ち、高機能のパソコンとプリンターによる卓上出版でも先端をいくSCREENホールディングスの垣内流は、その3つの罠と、真逆の道を歩んできた。

SCREENホールディングス 社長 垣内永次

1995年4月に米国駐在から帰国し、2000年7月に2度目の米国勤務に就くまでの5年余り。京都市の本社で、新設した調達部と、その役割を引き継いだマーケティング部で、その第一歩を記した。40代前半のときだ。

上司の役員と相談してやったのが、世界で競争相手だったイスラエル企業の、最先端カラースキャナーの輸入販売。自社のブランド名にして売ることができるOEM方式にするため、イスラエルへ飛び、交渉を重ねて実現した。

だが、明治元年の印刷業の創業以来、OEMで売った例はない。しかも、スキャナーは主力製品だ。技術者は「お前は、何をやっているのか。勝手にやれ」と怒った。営業部隊も「何で、競争相手の製品を、売らないといけないのか」と騒いだ。でも、お客のニーズがそこにあり、自社に適した製品はない。だから、「お客は喜ぶぞ。その後で、もっといいものをつくればいい」と説得する。売り出すと大ヒット。それから、自社でも同様の製品をつくり始めた。

屋台骨に育った半導体製造装置でも同じだが、システムの全部を自社でつくろうとせず、必ず必要となる付加価値の高いものを手がけ、あとは他社製品と組み合わせればいい。それが、欧米市場で激戦を経験した垣内流の結論だ。日本企業に根強い自前主義と、一線を画す。

米アップル製のパソコン「マッキントッシュ」(マック)を使った卓上出版でも、米国発の技術革新に後れをとり、対応した装置ができていなかった。だから、ライバルのカナダ企業の製品を、OEMで持ってくる。

自前主義と早々と決別したのには、やりたいことをやる、小さくても人と違うことをやりたいとの気構えが、背中を押す。

調達部の前に3カ月だけ海外営業部で欧米課長をしたが、その前はオランダの子会社に1年半と米国の子会社に5年半。オランダで地域に馴染み、やりたいことが出てきたとき、京都の役員から電話が入り、「明日か明後日の飛行機に乗り、米国へいけ。向こうの会社で、いろいろやってくれ」と言われた。