人気のリゾートスポットとして知られるハウステンボス(長崎県佐世保市)。2010年までは開業以来18期連続赤字という絶望的な状況だったが、旅行大手エイチ・アイ・エスの創業者である澤田秀雄氏が再建へ乗り出すと、翌年には黒字化。いまや年間入場者数288万人、経常利益92億円(2017年9月期)を超える優良企業だ。ハウステンボスはなぜ再生できたのか。その背景には弱者の戦略として著名な「ランチェスター戦略」があった――。

※本稿は、『【新版】ランチェスター戦略 「弱者逆転」の法則』(日本実業出版社)の一部を加筆、再編集したものです。

ハウステンボスのイルミネーションは全国イルミネーションキング5年連続1位を誇る。小さくともダントツのナンバーワンを一つずつつくる。(写真はハウステンボスHPより)

「弱者逆転」をするための理論と実務

大きな会社が小さな会社に勝つのは当たり前。弱肉強食、優勝劣敗は自然界の摂理。ビジネス界も戦略なしに戦えば、どんなに一所懸命にやろうとも大が勝ち、小が負けます。しかし、やり方次第、すなわち、戦略次第で小が大に勝てます。勝てないまでも負けずに存続し続けられます。

ビジネスにおける、この「弱者逆転」をするための理論と実務の体系が「ランチェスター戦略」です。多くの企業がこれを学び、自社の戦略づくりに活用してきたことから、わが国において競争戦略・販売戦略のバイブルといわれます。

2005年以降、海外旅行の取扱い人数ではJTBを抜いて1位となり、年商5000億円を超えたH.I.S.(エイチ・アイ・エス)もまた、その1社です。同社は1980年、澤田秀雄さんが机二つ、電話一本で始めた会社です。創業の頃、ランチェスター戦略を確立した故・田岡信夫先生の著書『ランチェスター販売戦略』を読まれて以後、ランチェスター戦略を積極的に採り入れ、自社の戦略づくりに活用してこられました。

まず、お金はないが時間のある学生向けに海外格安航空券を販売し、航空券販売事業者として独自の地位を確立。パッケージツアーの分野では、大手が注力するハワイやグアムではなく、バリ島、セブ島、プーケット島など当時は無名だったリゾートへの格安ツアーを販売。以後、旅行会社として飛躍的に成長を遂げていきます。これらの取り組みは、ランチェスター戦略の中の基本戦略というべき「差別化×集中×接近戦」(後述します)の実践にほかなりません。

2010年に澤田さんが社長に就任したハウステンボスの再建も、その後の躍進も、ランチェスター戦略理論で分析すれば、なぜうまくいったのかを整理することができます。ランチェスター戦略を知る、よい題材です。以下、解説していきましょう。

ライバルはテーマパークではなかった

1992年、総工費2200億円をかけて華々しく開業したハウステンボス。その歴史はまことに厳しいものでした。開業以来、18期連続赤字、その間に実質的な破綻が2度。バブルの負の遺産、九州最大の不良債権といわれていました。

不振の理由の第一は「オランダ村テーマパーク」という開業以来のコンセプトです。気軽にオランダに行ける時代に、国内でオランダ気分を味わうことができることの意味は薄れました。オランダ村とのコンセプトは時代のニーズに合わなくなり、その歴史的な役割は終わりつつあったのです。

第二に、長崎県佐世保市という立地の悪さです。佐世保の商圏は首都圏の20分の1です。アクセスは福岡から車で2時間、長崎空港からはバスで1時間。遠いし、便数は少ないし、航空運賃は高い。

澤田さんは、こうしたハウステンボスに、新しい命を吹き込みます。

「ハウステンボスとは何か。花と緑と水に囲まれたクラシックな美しい街並みです。テーマパークというよりも都市です。これから人々に求められる都市とはいかなるものでしょうか。クラシックな街並み。花畑や水車や森や運河や海といった心癒される景色。エンターテイメントやアミューズメントの驚き、感動といった良質な刺激。それでいてハイテクを駆使した次世代環境都市。都市機能を充実させていけば『東洋一美しい観光ビジネス都市』になるのではないかという夢が描けたから、再建をお引き受けしたのです」(澤田社長、以下、発言は同氏)。