高コスト体質を、どう変えていくか
1998年の初春、社長に呼ばれた。大阪の大丸梅田店の開業チームにいたときのリーダーで、気心が知れているから話は「全社の改革をやれ」と直球だ。命題も「最大の顧客満足を最小のコストで実現しろ。仕入れから販売に至るすべての業務を見直して、プロセスをつくり直せ」と明快だ。「後はお前に任せる。3カ月でマスタープランをつくり、5月中旬にある店長会議へ出せ」と言われた。46歳のときだ。
当時の大丸の営業利益率は1%と、低空飛行が続いていた。95年1月の阪神淡路大震災の影響ではない。ずっと店ごとに工夫は重ねてきたが、人件費など高コストの体質は、変わらない。後でわかったことだが、グループ会社の数字を合算すると赤字だった。
百貨店業界はどこも同様で、バブル経済が崩壊し、金融危機が迫るなか、スーパーやチェーンストア、専門店との競争が激しい。近い将来の人口減もみえてきた。このままでは生き残れない、という社長の危機意識に、同感した。
2月、百貨店業務本部の営業改革推進室部長の辞令が出る。メンバーは4人と少人数で、時間もない。ともかく、改革につながる説得力のあるデータが欲しい。そこで、ある分析手法に基づき、各部門で主な社員に、1日の時間の使い方などをアンケートした。
入社して神戸店の家庭用品売り場を担当したとき、「この会社はコストが高すぎる」と感じた。お客がいっぱいで、みんなが「忙しい、忙しい」と言うので人事部門に「人が足りない」と伝えると、相手は「社員が足りない」と解釈し、どんどん採用した。でも、言いたかったことは、違う。
伝票を書くとか熨斗(のし)をかけるとか、商品を運ぶなど、アルバイトでやれる仕事が山とある。「伝票の書き方はこうで、在庫があるのはここだ」「熨斗のかけ方はこうやり、お客さんにはこういうふうに言いなさい」と1時間ほど教えれば、普通の大学生なら全部できる。要はアルバイトを増やせばいいだけなのに、自前主義が続く。
アンケートでは「あなたは何時に出勤し、最初にやることは何ですか」「それを、何分やりましたか」「接客は何時間しましたか」「レジを打つ時間や商品の配送手続きに何分かかりましたか」「休憩は何分でしたか」など濃密に、約1カ月分を回答してもらう。
集計し、部門ごとに販売員、主任、マネジャーに分け、それぞれの作業にかけた人数と時間に1人当たりの賃金を掛けると、当然ながら、利益の最大の源泉は「接客して売る仕事」と出る。だが、1日平均の接客時間は勤務時間の約半分で、商品の搬入や伝票書き、会議などにとられる時間が多い。それらの「コスト」を計算してみると、70億円になった。営業利益が40億円だったから、大きい。
その結果を、店長会議に出す改革案に反映させる。「それぞれの仕事にお客さまを起点に優先順位を付け、第一の接客にもっと時間をかけ、可能な限り社員でやる」「アルバイトでいい作業は任せ、付帯的な作業はどの売り場でも同様だから、標準化して集約する」など、業務プロセスを抜本的に変えよう、と呼びかけた。