固定BIと変動BIの2階建て運用を

わたしは「2階建て」のベーシックインカムを提案しています。税金を財源とした社会保障制度としてのベーシックインカムと、貨幣発行益を財源とした、景気によって給付額が変動するベーシックインカムです。ここでは前者を「固定BI」と呼び、後者を「変動BI」と呼びましょう。

BIEN創設メンバーのひとりであるガイ・スタンディング氏も、固定額のベーシックインカムに経済の状態に応じて給付金を上乗せする重層型のベーシックインカムを提案しています。これは、好景気のときには上乗せ分は減額、不景気のときは増額するという考え方です。わたしの構想もスタンディング氏のものに似ています。ただし、わたしのいう変動BIは貨幣発行益を財源としているところが、スタンディング氏のアイディアとは異なっています。いずれにせよ、固定BIと変動BIによる「2階建てBI」を実施することで、多くの人が安定と豊かさを享受できるようになるはずです。

お金を刷ってもハイパーインフレにはならない

わたしが変動BIの財源として考えている貨幣発行益は、政府や中央銀行などが貨幣を発行することで得られる利益のことです。たとえば、1万円の発行コストは1枚あたり約20円のため、残りの9980円が貨幣発行益になります(それは日銀の定義する貨幣発行益ではないという批判が予期されますが、貨幣発行益の本質はわたしの述べている通りです)。かなり単純化して言うと、その貨幣発行益を国民配当として配るのが変動BIの考え方です。

貨幣をどんどん発行するとハイパーインフレーションになるのでは、という疑問は当然あるでしょう。しかし、いまのようなゼロ金利(マイナス金利)経済においては貨幣を発行し続けてもインフレは起きにくいと言えます。政策金利をゼロやマイナスにしても企業が銀行からお金を借りなくて、市中にお金が出ていかないからです。

現行の貨幣制度では、中央銀行の発行したお金が民間銀行に入り、そこから民間銀行が企業に貸し出して、企業が賃金として従業員に支払い、これが家計に入るという流れになっていますが、これは回りくどい仕組みで、近年はうまく機能していません。ゼロ金利(マイナス金利)経済において、各市中銀行が日銀に持つ当座預金に無駄にお金が積み上がる「ブタ積み」が起こり、さらに企業が内部留保を増やすことで、お金の流れに二重の目詰まりが起きているのです。これでは、全然家計にお金がまわらず、消費も増えません。そこで、直接お金を家計に届けるための仕組みである変動BIが必要となります。