カジノを中核とする統合型リゾート(IR)の設置に向けた動きが加速している。今国会にはIRの数などを定める「IR実施法案」が提出される見込みだ。推進派は「外国人のカネを呼び込む」と息巻き、外資系カジノ運営企業は「1兆円」規模の投資を表明しているが、そう簡単にはいきそうもない。ジャーナリストの出井康博氏がリポートする――。(前編、全2回)
マカオの大型カジノ「ザ・ベネチアン・マカオ」の様子(写真=Steve Vidler/アフロ)

「経済効果は7兆円以上」は本当か?

カジノを中核とする統合型リゾート(IR)の設置に向けた動きが加速している。2016年12月に成立した「IR推進法」に続き、IRの数などを定める「IR実施法案」が今国会に提出される。日本版カジノが誕生する日は近い。

「カジノをつくれば外国人観光客が押し寄せ、景気が大幅に改善する」
「カジノの収入は年1.5兆円。経済効果は7兆円以上」

カジノ解禁の是非が議論になっていた頃、推進派はそんな主張をメディアで展開した。安倍政権にとってもカジノは「成長戦略」の1つという位置づけだ。

「シンガポール、あるいはマカオがカジノによって世界からたくさんの人を呼び込むことに成功している。私自身は(カジノ解禁は)かなりのメリットがあると思っている」(2013年3月8日の衆議院予算委員会)

安倍晋三首相もそう述べ、カジノ解禁を主導した。

だが、世論には今もカジノに反対する意見が多い。『共同通信』が今年3月3-4日に行なった世論調査では、賛成26.6パーセントに対し、反対は65.1パーセントに上っている。

カジノ反対派は決まって、「ギャンブル依存症の増加」という問題を持ち出すが、カジノがなくても、日本にはパチンコを始めとしてギャンブルはいくらでもある。

マカオのカジノ収入は米ラスベガスの6倍以上

それよりも推進派が言うように、カジノは本当に景気回復の起爆剤となり得るのか。安倍首相も取り上げたマカオとシンガポールの「カジノブーム」を取材してきた筆者には、推進派の主張に疑問を覚えずにはいられない。

日本におけるカジノ解禁は、2000年代初めにも取り沙汰された。石原慎太郎・東京都知事(当時)が「お台場カジノ」構想を唱えて話題となったが、実現には至らなかった。その後、12年に自民党・安倍政権が誕生すると、カジノ解禁への動きが本格化する。きっかけとなったのが、当時、アジアで巻き起きていたカジノブームである。

「カジノ」と聞けば、アメリカのラスベガスのイメージが強い。しかし、世界のカジノ市場の中心はすっかりアジアに移っている。

とりわけ断トツの規模を誇るのがマカオである。ピーク時の2013年には、マカオのカジノ収入(客の負け分)は450億ドル(約4.7兆円)を記録し、ラスベガスの6倍以上に達した。10年にカジノを解禁したシンガポールでも、わずか2軒がラスベガス全体に匹敵する6000億円の収入をたたき出した。