機嫌よく人に頼める人間であれ

「下の世代に流す」に通じる部分も多い話ですが、「人に頼める」というのも「愛嬌」や「可愛げ」があるからであって、人柄がいいからできる行為だととらえています。

仕事において、「オレは仕事ができる。みんなついてこい!」というタイプがいるとしましょう。こうしたタイプが持っている、自分の能力に自信がある点はとても素晴らしいこと。ただ、度が過ぎると周囲からの嫉(そね)みにつながることも事実です。

「なにをやっているんだ! そんなこともできないのか! 見ておけ、オレがやってみせる」

実際にできれば「どうだ!」となり、これが続くと「どうせあなたはひとりでできるんでしょ」と周囲はただただ嫉んでいく。だから、実際に飛び抜けて能力が高く仕事ができ過ぎる人に限って、年を経ると自分が塔のテッペンに立ってはいるが周囲には誰もいない。最後は誰もついてきていない、という状況になっているものです。

つまり、いつまでも我を通し続けてしまう人は「可愛げ」がないんです。

とはいえ、真の天才ならばそれも致し方ないのかもしれない。「天才とは孤独である」とはむかしから言われることですからね。しかし、中途半端に仕事ができるくらいのレベルの人がこうなってしまうと、晩年はちょっと悲惨な状況になる。理解者が周囲にまったくいないという状況は、かなりつらいものがあります。

「一生、ついていこう!」と恩を感じる

だからこそ、「自分は完璧な人間でもないし、天才でもない」という自覚があるならば、すべてを自分で背負わず、ときにはウソでもいいから人を頼ってみるといい。

「オレ、いま手が一杯でさ」
「オレよりきみのほうがセンスがあるから、助けてくれないかな?」
「頼りにしているよ」

できる人からこんなふうに言われたら、頼られる人だって悪い気はしません。相手が弱さを認める一方で、自分が認められるという証しでもあるのですから。さらに、もしあなたに一定の実力があり頼まれるほうもそれを理解しているなら、こんなふうにさえ感じるかもしれませんよ。

「この人、本当は自分でもできるのにオレに仕事を振ってくれたということは、オレに仕事や経験を与えてくれようとしているのかな?」

頼まれたほうは、あなたに「一生、ついていこう!」と恩を感じ、あなたを「師匠」的なまなざしで見るようになる可能性だってある。

会社のなかで生き残り出世をしているのは、こうした「人に頼める」タイプが意外と多いと思うのです。若いころから突き抜けるような才能があって、「他の連中はみんなバカ。オレ以外はゴミばかり」なんて言って本当に仕事ができてしまうタイプは、いずれ居場所がなくなり、その会社からいなくなっていることも少なくない。

楽しく充実した人生を送るために

一方で、「人に頼める」タイプは、人から話しかけられやすい人でもある。それは、自分の弱さをさらけ出しているからこそとも言えますが、もうひとつ、おそらく機嫌のちがいもあるのでしょう。

才能があり仕事が“でき過ぎる”人は、自分が優秀な分、周囲のできなさが目につきイライラしがちで、結果として機嫌が悪く見えます。一方、「人に頼める」人は、そういったイライラとは無縁ですから、なんとなくいつも機嫌がよさそうで、周囲の人間も話しかけやすい。それが、ひいては人柄の善し悪しにもつながっていく。

仕事でもプライベートでも、会社でも学校でもどんなところでも、人間が生きていくうえで他者とのコミュニケーションは避けてはとおれません。多くの人にとって、自分が身を置く世界で成功したり、楽しく充実した人生を送るには、やはり「運=人柄」が大事になってくるのです。

鍋島 雅治(なべしま・まさはる)
漫画原作者、作家
1963年、長崎県生まれ。長崎県立佐世保商業高等学校、中央大学文学部卒業。スタジオ・シップ勤務後に漫画原作者として活躍。代表作に『築地魚河岸三代目』(小学館)、『東京地検特捜部長・鬼島平八郎』(日本文芸社のち小池書院)、『火災調査官 紅蓮次郎』(日本文芸社)。現在は東京工芸大学芸術学部マンガ学科の非常勤講師なども務める。
(写真=iStock.com)
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