働いていても、妻の年収が低いと休日の育児家事負担まで妻に偏る

共働き夫婦間で合意した上で、このように役割分担をしているのであれば、何の問題もない。しかし、明確な合意もないのに、妻に負担が多い役割分担になっていることに疑問を感じながら働いている妻も多いのではないか。「育児との両立のために、私が働き方を調整した。その結果として給与が低くなっているのに、私の収入が低いことを理由に、夫が育児や家事をやらない」

だからといって、単純に夫を責められる問題でもない。育児休業制度、短時間勤務制度、在宅勤務制度など、育児をしながら女性が働き続けるための環境は、過去に比べて、随分整ってきた。一方で、男性に対しては、社会的には制度が整ってきたとはいえ、職場では、これらの制度を利用しやすい状態には至っていないのが現実だ。その結果、妻が働き方を調整し、収入が減る。そしてそれを理由に育児家事時間の分担も妻に偏る。仕事と育児家事の多重責任を負う妻からは、仕事で挑戦しようという気力はそがれていくだろう。

女性が働き方の調整を迫られない社会に

より多くの人が就業して能力を発揮できる社会の構築を目指すのであれば、働き続ける女性の数を増やすだけでなく、女性が働き方の調整を迫られない社会にする必要があるのではないか。例えば、労働時間でいうと、「働き方改革実行計画」が掲げる、週60時間以上の長時間労働をなくしていくというレベルを超えて、誰もが残業なく定時で帰れる社会を目指す。そうすれば、フルタイムで働いていても、残業ができないことを理由に、短時間勤務制度を選ばざるを得ない状況や、フルタイムではない働き方に変える必要性は解消される。また、これは企業にとっても無駄な残業代を無くし、生産性をあげるチャンスにもなる。

もはや、育児に限らず、時間に制限なく働ける人は今後ますます減っていく。誰もが介護を担う可能性をもち、時代の変化のなかで働き続けるために学ぶ時間をもちたいと願う。また、地域のなかで役割を発揮したいという思いが増すかもしれない。残業なしで定時に帰れることが当たり前の社会を実現することは、誰もが、それぞれの状況に応じて仕事で能力を発揮しつづけることを可能にするであろう。

また、前述の調査結果からは、労働時間が長くても、平日から育児や家事に参加している夫がいることや、妻の収入が夫と同等レベルでも、育児や家事に参加しない夫がいることもわかった。その背景についても、明らかにしていく必要があるだろう。そこには、個人の働き方の問題を超えて、社会のジェンダー観を再構築していく必要性が見えてくるのではないだろうか。

(i)本稿では、共に雇用されて働く、6歳未満の子どもをもつ夫婦に注目する。
(ii)男性の育児家事参加時間の数値目標の達成度は、総務省の「社会生活基本調査」で測定される。リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査」で把握できる、育児家事参加時間は、ほかの活動をしながらの育児家事時間もカウントされるという設問の違いがあるため、「社会生活基本調査」よりは、育児家事時間が長くなる傾向がある。
(iii)「平日から長い」は、平日の育児家事時間が、数値目標である1日あたり2時間30分をすでに超えているもの、「平日は短いが、休日は長い」は、平日は平均に満たない1時間30分未満だが、休日は平均を超える4時間30分以上のもの、「平日も、休日も短い」は、平日は平均に満たない1時間30分未満であり、休日も1時間30分未満のもの。

萩原牧子(はぎはら・まきこ)
リクルートワークス研究所主任研究員/主任アナリスト。大阪大学大学院博士課程(国際公共政策博士)修了。株式会社リクルートに入社後、企業の人材採用・育成、組織活性の営業に従事。2006年4月より現職。個人を対象とした調査設計を担当し、個人の就業選択やキャリアについて、データに基づいた分析、検証を行う。労働経済学・公共経済学専攻、専門社会調査士。
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