そしていま、アベノミクスが圧倒的な信認を得た(とぼくは今回の選挙結果を理解している)いまだからこそ、もっと強力にそれを進める必要がある。景気がそこそこ上向いてきたことで気が緩み、アベノミクス(たとえばインフレ目標と金融緩和)をやめようとか、消費税率を予定通り上げようとかいう議論もちらほら散見されるようになっている。これはきわめて危険なことだ。前回の消費税率引き上げも、目先のわずかな状況改善に慢心した結果として生じた大悪手だった。それを繰り返してはいけない。それにインフレ目標も、目先のインフレ率を上げるだけではなく、これからずっと穏やかなインフレが続く(そして人々がそう思ってくれること)が重要なのだ。
現状に甘んじずさらに大胆な施策を
このあたりについては、やはり少し前の本ながら片岡剛士『日本経済はなぜ浮上しないのか アベノミクス第2ステージへの論点』(幻冬舎)を読むべきだ。片岡剛士といえば、つい先日日銀の審議委員となり、そして日銀会合でこれまでの金融政策維持に反対した猛者だ。これまでの反対委員というのは、金融を引き締めるべきだ、という意見の持ち主だったけれど、片岡はなんと、もっと緩和的な政策を採るべきだということで現状に反対した。まさに、現状に甘んじるなというわけ。わずかな外部環境変化でいまの経済状況は悪化しかねない。これまでの政策の効果もまもなく尽きかねないので、もっと大胆な施策を講じるべきだ、と。
かれの見方は2014年のこの本以来まったく変わっていない。そして日銀委員になってもその同調圧力に負けずにかつての見解を貫き通しているのもすばらしい。その見解は基本的には、最初に紹介した『日本経済最後の戦略』とほぼ同じとなる。
どちらの本も、それなりに重い。でもいずれも腰を据えて読む価値がある本だ。そして1人でも多くの日本人がそれをやってくれれば、たぶん日本の経済政策もずっと改善するはずだ。いま、日本経済でもう一つ心配なのが、安倍首相の後継者があまりはっきりしないということだ。ポスト安倍で名前が出る人々の多くは、妙な緊縮財政論者だったりして、これだけ成功しているアベノミクスをストレートに受け継ごうと主張している人がまったくいない。これは大きなリスクだ。国民がこの2冊(片方でもかまわない)を十分に理解してくれたら――そしてそれを政治家たちに伝えてくれたら――日本の将来はずっと明るくなるはずなのだが……。
評論家、翻訳家。1964年生まれ、マサチューセッツ工科大学修士課程修了。大手シンクタンクで地域開発や政府開発援助(ODA)関連調査を手がけるかたわら、経済、文学、コンピュータなど幅広い分野で翻訳・執筆を手がける。著書に『新教養主義宣言』、訳書にポール・クルーグマン『クルーグマン教授の経済入門』、トマ・ピケティ『21世紀の資本』、フィリップ・K・ディック『ヴァリス』など多数。