そして、各種の債務削減オプションがその後詳細に検討され、アベノミクス下での財政状況の推移についてもていねいに分析が行われる。その中で、これまでのアベノミクスの成果に関する検討も展開されている。アベノミクスは経済成長に好影響を与えてきたし、雇用も所得も着実に回復している。そして財政面でも一定の効果をあげている。ただし、いずれもまだ弱いし、いまの日本の長期停滞状況を完全に打破できる規模かどうかは怪しい。金融も財政も構造改革もさらに着実に、大規模に(そして足並みをそろえて!)進めることで、将来の成長見通しをあげ、それを通じて現在の停滞から脱することはできる。またそうするのが日本の国民や国際社会に対する責務でもある。つまりは、アベノミクスをもっと強力に進める必要があるのだ――これが本書の結論となる。

今こそアベノミクスを強力に推し進めよ

『日本経済 最後の戦略』(田代 毅著・日本経済新聞出版社刊)

本書の分析も結論もまったく異論のないところではある。唯一不満があるとすれば、消費税率引き上げの悪影響についての言及があまりないことだろうか。2012年末からのアベノミクスで急激に改善していた経済状況は、2014年の消費税率8%への引き上げにより大きな打撃を受け、せっかく軌道に乗っていたデフレ脱却も、もとの木阿弥になってしまった。その打撃を回復するまでにさらに数年かかり、それがアベノミクスにミソをつける口実にもなってしまっている。著者は、アベノミクス第二の矢だった財政政策が「なかった」という見方だけれど、ぼくからすれば、拡大すべきところでブレーキを踏んだ、「なかった」にとどまらないマイナスですらある。が、その他の分析は文句なしだし、世界の経済学界で話題になった長期停滞論などの話題もしっかり織り込んだ視野の広い一冊となっている。

ディスクロージャーをしておくと、ぼくは著者とは知り合いだし、この本を草稿段階で見せてもらったりしている。が、それを割り引いても、本書は非常にしっかりしたものだと考えるし、多くの人がいまこれを読んで、改めてアベノミクスのこれまでの業績や、日本経済の向かうべき道を考え直してほしい。